相手に期待する役割というひとつのフレーズを組み込むことで、聞き手は個の対話では質問があれば発言すればよいのだなとか、今日は購入するかどうか決めなければならないのだなというように、その対話やプレゼンの結果、自分は何をしなければならないかが話の冒頭でわかる。そうして聞き手は安心して話に集中できるのだ。
逆にそれがわからないと、いったい話し手は聞き手の自分に何を期待しているのか、その対話やプレゼンを自分はどういう心持ちで聞けばよいのか、不安を抱えたまま話が始まってしまう。そのため、聞き手は話に集中できないことになってしまう。
その状態が続くと、「この人の話はいつも落ち着かない気持ちにさせられる」……。ひいては、いらだたせる、聞く気になれないという感情を持たれがちになり、そういう話し手の周りには人が集まらなくなる。
また、相手に期待することを話の冒頭に盛り込む反復演習をしていて受ける質問に、「相手に何を期待しているかは、話のなかで決まってくるので、冒頭で話さずに、最後に話したほうが効果があるのではないか」というものがある。
たとえば、「製品を購入していただきたい」と思っているが、それを冒頭で話さずに、製品説明をしているなかで相手が関心を示してきたら、話の最後でそれを話すという方法だ。このように、製品を購入してほしいという「売り込み」の姿勢を見せないほうがよいのではないかという考えもある。
しかし、「製品を購入していただきたい」という、相手に何を期待しているかを最後に話す方法を演習してみると、聞き手からは「どうせ、製品を売りたいのだろうという気持ちで聞いていたので落ち着かなかった」、「結局、製品を売りたいということか。だとすれば、最初から言ってほしかった」という反応が返ってくることが多い。
「売り込み」の姿勢を相手に与えてしまうのは、「買ってください」という自分の期待を伝えているからで、相手に期待する役割を正しく伝えていないからだ。冒頭で伝える相手に期待する役割は、「製品の説明をしますから、購入してください」ということではなくて、「製品の説明をしますから、購入するかどうかの判断をいただければ幸いです」という内容なのだ。
質問:目的と所要時間を話しても、相手を引きつけられない
出会うまでの背景、自己紹介に続けて、目的、所要時間を話しても、相手が落ち着きのないそぶりをみせていて、相手を引きつけることができているように思えません。どうすればよいのでしょうか?
回答:相手に期待する役割を話す
背景、自己紹介、目的、所要時間を話したうえで、「説明を聞いていただいて、関心があるかどうかお聞かせください」、「可能であれば、ご助言ください」というように、相手に期待する役割を伝えると、話の導入部分で相手をしっかりと引きつけることができます。
「会うことは会ったが、いったい、自分に何をしてほしいのだろうか」と思っている相手は、実に多いのです。
【山口博[連載コラム・分解スキル・反復演習が人生を変える]第137回】
【山口 博(やまぐち・ひろし)】グローバルトレーニングトレーナー。モチベーションファクター株式会社代表取締役。国内外企業の人材開発・人事部長歴任後、PwC/KPMGコンサルティング各ディレクターを経て、現職。近著に『
チームを動かすファシリテーションのドリル』(扶桑社、2016年3月)、『
クライアントを惹き付けるモチベーションファクター・トレーニング』(きんざい、2017年8月)がある