こうした突如の変更は、Adobeが抱える訴訟が原因ではないかという記事も出ている(
Engadget 日本版)。Adobe は、2002年から2017年の間の使用料未払いでドルビーに訴えられている(
訴状)。ライセンス契約をしたものの使用料を払わず、監査も拒否したそうだ。
その訴訟の影響か、2017年にドルビーのデコーディングとエンコーディングサポート機能を『Adobe Creative Cloud』の各種ソフトから削除して、OSがネイティブサポートする機能を利用するようになった(
Adobe Community)。
2017年やそれ以前のバージョンのアプリがダウンロードできなくなったために、この動きと関係があるのではと推測されている。「第三者に権利侵害を主張される可能性」という文章に出てくる「第三者」は、Adobe が訴えられているドルビーを指しているのかもしれない。
いずれにしても、これは Adobe と「第三者」の間の問題であり、ユーザーには関係ない。ユーザーを募集する際に掲げていた内容を一方的に変更して、ユーザーに不利益を与えるのならば、何らかの救済措置が必要なのではないだろうか。この場合の救済措置は、過去のソフトを使える状態にすることだろう。
クラウド時代のソフトとデータの関係、突如利用できなくなるデータ
クラウド時代になり、企業はネット経由でソフトウェアを管理し始めた。その結果、自分が作成したデータを自由に利用できないという問題が発生している。
ソフトウェアが大きく改修されたり、サービスが終了すると、データを開けなくなってしまう。独自形式のデータで、他のソフトで開く方法がない場合は致命的だ。データが手元にあっても、見ることも聞くこともできない。
データには、複数のアクセス方法があることが望ましい。サービスも、乗り換え可能なものがある状態が健全だ。私自身も、なるべく不自由でないデータとソフトの組み合わせを利用するようにしている。また、代替方法がないサービスの場合は、自前でコードを書いて、いざという時に乗り換え可能な状態にしている。
クラウド経由で利用できるソフトは、ある日突然利用できなくなる。
今回の一件は、そうしたデータに対する自衛が必要だということを、強く意識させられる出来事だった。
◆シリーズ連載:ゲーム開発者が見たギークニュース
<文/柳井政和>
やない まさかず。クロノス・クラウン合同会社の代表社員。ゲームやアプリの開発、プログラミング系技術書や記事、マンガの執筆をおこなう。2001年オンラインソフト大賞に入賞した『めもりーくりーなー』は、累計500万ダウンロード以上。2016年、第23回松本清張賞応募作『バックドア』が最終候補となり、改題した『
裏切りのプログラム ハッカー探偵 鹿敷堂桂馬』にて文藝春秋から小説家デビュー。近著は新潮社『
レトロゲームファクトリー』。