「いいね」の圧力にインスタが英断!? 「いいね」数非表示化をカナダでテスト

複雑化した社会での自己実現

「いいね!」は現代のスロットマシーンということを書いたが、「いいね!」の数字には別の側面もある。それは、自己実現が難しい複雑化した社会で、比較的簡単に成果を得られるツールという面だ。  現代社会で地位を上昇させるのは容易ではない。この地位を可視化したものに年収がある。多くのサラリーマンにとって、数週間や数ヶ月で年収を上げることは不可能だ。そうした抑圧された環境の中で、自己肯定感を持ち続けるのは、なかなか容易ではない。  そうした社会の中で、数値化された結果を短時間で得られるものは、強い自己肯定感を与えてくれる。たとえばゲームは、そうしたツールのひとつだ。高得点を取ったり、強いキャラを獲得すれば、自己肯定感を得られる。  ダイエットもそうしたものの一つである。適切な運動をすれば、体重を1週間に1kgずつのペースで減らすことができる。私も一時期トレーニングでの減量にはまり、60kgを切るまで体を絞ったことがある。その頃は、陶酔に近い感覚を得ていた。  インフレする数字自体にはまることもある。一時期流行った『クッキークリカー』というゲームがある。クッキーを延々と増やすゲームなのだが、私も1週間ほどはまって、寝る時間以外ずっとクッキーを増やし続けて多幸感を得た。  SNSの「いいね!」やフォロワー数は、複雑化した社会で、比較的簡単に自己実現を達成させてくれる。また、ゲームやダイエットとは違い、社会に対する影響力も獲得できる。数値を上げるゲームが、リアルな人生を変容させるのだ。その魅力は抗いがたいものがある。  Instagramが始めた「いいね! を隠す実験」は、利用者にどのような影響を与えるのだろうか。ユーザーの熱狂が冷め、非表示を撤回するかもしれない。あるいは、それなしでも、SNSを楽しむ人たちがいて、ビジネスに影響がないのかもしれない。成長期には必要だが、安定期には必要のない施策と「いいね!」が見なされる可能性もある。  Instagramの実験がどうなるのか。他のSNSに波及するのか。今回の試みの結果を見守りたいと思う。 ◆シリーズ連載:ゲーム開発者が見たギークニュース <文/柳井政和> やない まさかず。クロノス・クラウン合同会社の代表社員。ゲームやアプリの開発、プログラミング系技術書や記事、マンガの執筆をおこなう。2001年オンラインソフト大賞に入賞した『めもりーくりーなー』は、累計500万ダウンロード以上。2016年、第23回松本清張賞応募作『バックドア』が最終候補となり、改題した『裏切りのプログラム ハッカー探偵 鹿敷堂桂馬』にて文藝春秋から小説家デビュー。近著は新潮社『レトロゲームファクトリー』。
やない まさかず。クロノス・クラウン合同会社の代表社員。ゲームやアプリの開発、プログラミング系技術書や記事、マンガの執筆をおこなう。2001年オンラインソフト大賞に入賞した『めもりーくりーなー』は、累計500万ダウンロード以上。2016年、第23回松本清張賞応募作『バックドア』が最終候補となり、改題した『裏切りのプログラム ハッカー探偵 鹿敷堂桂馬』にて文藝春秋から小説家デビュー。近著は新潮社『レトロゲームファクトリー』。2019年12月に Nintendo Switch で、個人で開発した『Little Bit War(リトルビットウォー)』を出した。2021年2月には、SBクリエイティブから『JavaScript[完全]入門』、4月にはエムディエヌコーポレーションから『プロフェッショナルWebプログラミング JavaScript』が出版された。
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