人々は何を期待し何に失望したのか? 民主党政権と震災復興の時代の「政治の言葉」<「言葉」から見る平成政治史・第7回>

南三陸町 防災対策庁舎

南三陸町 防災対策庁舎。 <5mp / PIXTA(ピクスタ)>

政権交代を彩った「言葉」たち

 日本の政治に対して、期待と失望がないまぜになった時期だった2009年9月から2012年12月までの3年3ヶ月。それと同時に、現在につながる政治社会的基盤が概ね完成をみた時期でもあった。小泉内閣とその後の短命内閣の混乱を経て、90年代初頭に構想された二大政党制がいよいよ具現化することに期待感も高まった。  しかし、期待感に溢れた民主党政権は、完成すると同時に綻びを見せることになった。  もちろん、あまり認知されていないものの民主党政権が生み出した「成果」もあった。  東日本大震災復旧復興における市民社会の知恵の活用に貢献した政権とNPOとの近さのベースとなったのは、特定非営利活動促進法(通称、NPO法)の迅速な改正によって、税制優遇を受けられる認定NPO制度の柔軟化や認定基準の緩和、NPO法人設立申請手続きの簡素化や地方自治体への権限委譲等、現在にまで影響する重要な法改正だった。  また、ソーシャルメディア等の公的機関における活用が本格化したのもこの時期にあたる。復旧復興に関連して、オンラインでの情報発信が積極活用されたことは特筆すべきだ。  しかし、最終的には統治の知恵と手法、経験の不足が露呈した。  加えて、起きたのが2011年の東日本大震災だった。その復旧復興については、他の政権であったとしてもそれなりに混乱したことは疑い得ないが、不信感は増す一方で、結局、2012年12月に、野田内閣は突如辞意を表明した。 「新しい政治」とそこから発せられる新しい言葉に対する希望と失望に満ちていたこの時期の「政治の言葉」は、いかなるものだったのか? 前回同様いつものように、「『現代用語の基礎知識』選 ユーキャン 新語・流行語大賞」のサイト内の「過去の授賞語」から、2009年~2012年の間に選出された言葉を選評とともに取り上げて論評する。

本格的な二大政党制への期待感に満ちていた2009年

●2009年 年間大賞 「政権交代」/ 鳩山 由紀夫(内閣総理大臣) ”8月30日の第45回衆院総選挙。自民党は300から119へと議席を激減させ惨敗。一方、民主党は115から308へと議席を大きく伸ばして圧勝した。投票率は69.3%。総選挙の結果を踏まえて、9月16日、鳩山由紀夫を首班とする民主党内閣が発足した。選挙による政権交代が実現したのは初めてのこと。”  民主党は2000年代を通して、郵政選挙などの例外はありつつも、一貫して支持を高めてきた。小泉内閣はまだ政権を担当できるのではないかという余韻を残したまま、そうそうに安倍晋三官房長官を後継指名し幕引きを迎えたが、第1次安倍政権とその後の自民党政権は小泉内閣をスムーズに引き継ぐことはできなかった。  90年代の政変と頓挫からおよそ15年が経過し、小選挙区比例代表並立制の導入を経て、本格的な二大政党制に対する期待感が民主党に向けられた。2009年の政権交代はそれらが端的に具体化したもので新語・流行語大賞の年間大賞授賞にもあらわれている。  しかし、日本政治は期待と、その大きさの反動によって生じる失望を繰り返してきた。2009年の政権交代も結果だけをみればその域を出るものではなかったが、そのことはまだ新語・流行語大賞の講評にも露程にも認められられなかった。 トップテン「事業仕分け」/行政刷新会議と事業仕分け作業チーム ”国や地方自治体が行う個別の事業について、公開の場で必要性や効率的な実施方法を議論する手法。各事業を「不要」「民間に委託」「国ではなく都道府県が行うべき」などと仕分けする。「仕分け人」と呼ばれるのは公務員OBなど、民間人。民主党新政権の下、行政刷新会議はこの手法を用いて、概算要求に盛り込まれた事業の必要性などを判定していく。”  構想日本という政治行政の透明化と説明責任の強化を標榜するNPOが2000年代から主に地方自治体で実践を積み重ねてきた手法を国政にも導入するかたちで実施。2010年の予算編成から活用されることになった。当時代表的だったが最近ではすっかり存在感が薄くなったUstreamやニコニコ動画といったネット動画のプラットフォームを使ってライブ配信が行われた。同時に日本でもサービスが開始され、アーリーアダプターたちがこぞって使うようになったTwitterやFacebookといったSNSでも関心を集め、多くの論評が行われた。本来の民意とは異なる「ネット世論」の政治行政への積極活用の日本における先駆的事例となった。 トップテン「脱官僚」/渡辺 喜美(衆議院議員) ”元行革担当相で、みんなの党代表の渡辺喜美などが提唱した、「天下り廃止、政治・国民主導」の理念。民主党政権も当初「脱・官僚」を打ち出したが、郵政人事を初めとする相次ぐ元官僚の起用に、その雲行きは怪しくなっている。”  思えば90年代からの日本での行財政改革では「脱官僚」「公務員の削減」が声高に強調されるようになった。実際には日本の人口あたり公務員数はみなし公務員を含めて必ずしも多いとは限らないが、既得権益批判の一形態として現在に至るまで根強い世論の支持を受けている。古くはマックス・ウェーバーが共産主義と政権の現実味を批判しながら指摘したように、統治には統治の専門知が必要であることは論をまたない。少し考えれば自明だが、そうした複雑な現実よりも、「脱官僚」「脱既得権益」といったわかりやすい「政治の言葉」がこの頃より強く好まれるようになった。
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期待から一転、目立ち始めた綻び
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