人々は何を期待し何に失望したのか? 民主党政権と震災復興の時代の「政治の言葉」<「言葉」から見る平成政治史・第7回>

急速に募った失望感

●2010年 トップテン「脱小沢」/受賞者辞退 ”9月の民主党代表選を受けて成立した菅改造内閣・党役員人事に向けて、メディアは「脱小沢」人事と報じたが、そんなレッテルはもうやめようと応戦していたのは仙谷由人官房長官。国民そっちのけながら騒ぎの止まなかった今年の政局だが、やはりその中心にあったのが「小沢」の2文字。この存在感は依然として、強い。”  2010年の年があけて、民主党政権に対する失望感が募り始める。華々しいマニフェストを実施するための財源不足と「政治主導」の混乱、鳩山総理の退陣、さらには後を継いだ菅内閣のもとでの参院選の失敗でそれらはいっそう如実になった。参院選では民主党は議席を大きく減らし、逆に野に下った自民党は谷垣総裁のもとで議席を伸ばした。社民党の連立からの離脱もあって、民主党は苦境に立たされたが、やはり注目を集めたのは90年代から政界再編に辣腕を奮ってきた小沢だった。ポスト民主党政権でこそ、その存在感の衰えが目立つが、民主党政権においては平成の政変同様、その動向に注目が集まり、それは小沢を登用しない「脱小沢」ですら話題になるほどであった。

そして未曾有の危機を迎えた2011年

●2011年 トップテン 「絆」/ なし ”今活動しているボランティアを含め日本国民、そして海外から日本を応援くださったすべてのみなさま 未曾有の大災害である東日本大震災は、人々に「絆」の大切さを再認識させた。復興に際しての日本全体の支援・協力の意識の高まりだけでなく、地域社会でのつながりを大切にしようとする動きや、結婚に至るカップルの増加などの現象がみられた。”  未曾有の大災害、東日本大震災は当時の日本社会のあらゆる側面に影響した。「絆」はそのなかで繰り返し用いられたキャッチフレーズであった。NPOや企業の復旧復興のプロジェクトの事業名称などにも広く用いられた。同じく2011年の新語・流行語大賞のトップテンに選出された「無縁社会」のポジネガとしても捉えられるそうだ。縁が失われた社会を結び直すのが絆であり、社会関係資本だからだ。  だが本来、自発的かつ自生的な絆が、非常時とはいえ繰り返し公的な場面で強調されることに対する違和や嫌悪感も研究者やジャーナリストによって表明された。 トップテン「スマホ」/AND market 霞が関 西川征一(NEC モバイリング株式会社マーケティング戦略本部 セールス事業推進本部マネージャー) ”スマートフォン。パソコンと同等の拡張性をもち、インターネットにそのまま接続可能な携帯電話。アップル社のiPhoneシリーズが大人気となり、その後、グーグル社が提供する「アンドロイド」を搭載する機種など、各社が類似端末を発売して製品ラインナップを広げた。2011年はスマホ普及の年といわれ、夏には携帯電話端末の販売台数の半分以上をスマートフォンが占めた。”  家庭用PCと同等かそれ以上に高機能でありながらコンパクトなスマートフォン、和製英語としての「スマホ」の登場はその後、日本のメディア環境を激変させることになった。  スマホによってインターネットはいっそう身近なものになり、安価で大容量データの送受信が可能な4G回線の普及と重なり、メディア力学の変更に大きく影響した。テレビや新聞は遥かに身近で多機能なスマホと可処分時間を競うことになったからだ。当然、伝統的なマスメディアはそのような時代にどのように存在するか戦略的な検討が必要だが、日本では規模の大きさもあり、そのような根本的な議論はほとんどなされないままで、とくに新聞紙は2010年代に入って顕著に読者数の減少と読者の高齢化を見せている。大企業がイノベーションの存在を認知しつつも、本格参入できないという典型的なイノベーションのジレンマ状況に見える。  総務省の『平成30年版 情報通信白書』によれば、日本では2017年にスマホからのインターネット・アクセスがPCを上回った。当然だが、政治と政治の言葉、そして政治を論じる言葉の重心も従来のマスメディアからネットへと変わっていくものといえる。 トップテン 「どじょう内閣」/ 野田佳彦(内閣総理大臣) ”8月29日の民主党代表選で、野田佳彦候補が相田みつをの詩「どじょうがさ 金魚のまねすることねんだよなあ」を引用、地味だが実直な政治を目指すことをアピールして当選した。メディアはこの演説を「どじょう演説」と呼び、野田内閣のことも「どじょう内閣」と呼ぶようになった。”  民主党政権に対する最後の期待感をもって、この年の新語・流行語大賞のトップテンに選出されたのだろうが、野田内閣に選択可能なオプションはほとんど残されていなかった。発足当初こそ60%近い内閣支持率だったが、右肩下がりの様相を呈することになった。その後、きりのよいタイミングで解散総選挙に打って出るわけでもなく、11月の国会論戦のさなかに突如、解散に言及し、総辞職。野田は3年3ヶ月の民主党政権、そして衆議院の小選挙区比例代表並立制導入以後初めての非自民党政権に終止符を打ったトップテン 「風評被害」/ 受賞者なし ”ありもしない噂やデマを世間に流されたり、取り沙汰されたりして被る被害のこと。福島第一原子力発電所事故後、被曝を恐れる心理から、福島からの避難民が差別的な扱いを受けるなどした。また農畜産物や魚、工業製品が過剰に避けられたりするなどのケースも発生した。”  政府や公的機関もネットで情報を発信するようになったが、ネットを背景にする新たな風評被害が深刻になっていく。検索中心のネット利用から、スマホ上でのSNSやソーシャルメディア、アプリ中心のネット利用に変化していくなかで、ネット利用はかつて言われたような「プル型」、すなわち検索者が主体的な意思をもって検索する利用ではなく、アルゴリズムが各ユーザーの過去の利用履歴や検索履歴から個別最適化された情報を提案する「新しいプッシュ型」が再度主流になりつつある。  すでに科学的に安全性が確認された日本産食材の禁輸措置を取る近隣諸国は韓国をはじめ2019年現在も残っており、WTOも支持している。近隣諸国では世論形成にネットが日本以上に重要な役割を果たしている。国内のみならず、海外に向けた風評被害対策の施策が求められる時代局面を迎えているともいえそうだ。
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短絡的な民意を重視する安易な路線に移ろい始めた「政治家の言葉」
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