「離島を守らない」はずの奄美大島の自衛隊配備を、島民が「要望」する“事情”

基地を呼び込む、公共事業頼みの経済事情

補足資料

佐藤正久外務副大臣の講演会で配布された補足資料

 冒頭の講演会で、佐藤外務副大臣は「奄美大島には、弾薬庫、備蓄庫、自衛隊専用の滑走路に、空母用の軍港も必要だ」と高らかに宣言。詰めかけた土建関係者の顔をほころばせた。  そして「参議院選挙、がんばろう」の三唱で作業服の男性が壇上に向かって拳を突き上げる、異様な光景で幕を閉じた。 「保守地盤の強い奄美の選挙では、動員数がモノを言う。地元の土建会社にとって、選挙期間中に何人出せたかが、公共事業の受注に直結する。だから作業服を着て必死で企業名を売り込む」  奄美で選挙があるたびに、島民らはまことしやかに語る。  奄美大島をはじめとする奄美群島には「奄美群島振興交付金」という、主にハードインフラに予算消化される“紐付きの助成制度”があり、島の経済は公共事業を担う土建会社によって成り立っている。  平均世帯年収が300万に満たない奄美大島の雇用や懐事情は、公共事業によって支えられているのである。そこに、国策としての防衛要塞化が絡む。  こうして「世界自然遺産登録」を目指す南の楽園は、どんな公共事業でも受け入れ続けるコンクリート・アイランドとなっていく。

基地の誘致は、利権構造の中にいる人々の「強い要望」によって進められた

山林が削られる

基地建設のために山林が削られる奄美大島

 佐藤外務副大臣による講演の翌日・翌々日には、同じ奄美群島の徳之島と沖永良部島で「防衛協会青年部」の設立パーティが開かれていた。事実上の「基地建設誘致団体」となるこの会には、地元の自衛隊出身者とともに、地元土建会社の経営者らが名を連ねる。  あらゆる誘致は「それを求める一部住民からの強い要望により」議会に意見書が提出されるところから始まる。当然、利権構造の中にいる人々による「要望」であり、地元の与党系代議士からあらゆる手ほどきを受けて提出される。  そして今年3月末、550人規模の陸上自衛隊が奄美大島に配備された。これは2014年に、防衛副大臣の視察とタイミングを合わせるようにして「陸上自衛隊配備を求める意見書」が奄美市議会に採択されたことに始まる。その後、防衛省への形ばかりの陳情が予定調和的に行われた。  翌2015年には、国の防衛予算に用地取得のための費用が組み込まれ、2016年より駐屯地造成工事がスタート。市民への表立った説明会もなされないまま、3年後に基地が完成した。  今後誘致団体となる可能性が高い防衛協会青年部会が結成された徳之島・沖永良部島の2島でも、地元土建会社の経営者など有力者が島民に根回しを進めている。基地建設が進むのも時間の問題だろう。
沖永良部島

関係者のFacebookにアップされていた「沖永良部島防衛協会青年部会設立式典」

 削られる山肌、赤土で汚れていくサンゴの海を尻目に相好を崩している、さまざまな立場の人々がいる。アメリカと中国の2国間の軍事的緊張は、島民の意図とは関係ない「本土マターの公共事業」を増やし、山林伐採や砕石が相次ぐ環境破壊に拍車をかけていく。 <文・写真/武内佑希>
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