「オウム事件と報道」について、なぜTBSビデオ問題が重要なのか

4時間近くに及ぶ謝罪・検証番組

 翌1996年になっても、TBSはビデオを見せていないと主張し続ける。坂本弁護士一家殺害事件に関する早川被告の初公判当日の3月12日、TBSは記者会見を開き、ビデオを「見せていないと確信している」と発表。3月19日に衆議院法務委員会に参考人招致された大川光行常務(当時)も、同じ証言を繰り返した。  しかし3月23日、TBS側も「早川メモ」を入手。その内容を受けて、曜日担当プロデューサーは社内調査チームに対して「見せた記憶はない」との主張は維持しつつも、「見せたとしか思えない」と言い始めた。TBSは3月25日に一転して謝罪を表明した。  約1カ月後、TBSは謝罪と検証の番組を放送する。1996年4月30日、夜7時から3時間50分にわたるものだった。〈特別番組「視聴者の皆様へ」〉と題する謝罪が20分間、〈特別番組「証言」─坂本弁護士テープ問題から6年半〉と題する検証が3時間30分。本稿での関係者等の証言は全て、この番組からの引用だ。  番組の中で、オウムにビデオを見せた2人のプロデューサーも、顔や名前を出さないままインタビューを受けている。曜日担当プロデューサーは、ビデオを見せた事実を坂本弁護士に伝えたと主張した。「見せた記憶はない」はずだったのに、坂本弁護士に伝えたというのだ。そして結局、インタビュー中に、坂本弁護士には伝えなかったと認めている。

「見せてない」はずなのに口止め?

 検証番組の中で、番組プロデューサーはこう証言している。 「(オウム側が)インタビューに答えるなら、(坂本弁護士の)VTRを見せてもいいということをぼくは言ったと思います。両方の意見が対立意見があったほうがいいので、交渉事だと思っていました。でもそれは拒否されたんですね」  検証番組では、ビデオを見せたかどうかについて、番組プロデューサーは「見せていない」、曜日担当プロデューサーは「覚えていない」との立場だ。しかし早川は供述調書の中で、ビデオを見たことは公言しないようにとTBS側から要請されたと語っていた。  曜日担当プロデューサーは検証番組の中で、こう語っている。 「私が言ったか番組プロデューサーが言ったかというのは、まだ明確じゃないんですけども、そんなことは言ったんではないかなあと、何となく感じるものはあるんですね」  聞き手から「そう言ったということは、ここで見せていなくても別のところで見せたという認識はあったのでは?」と尋ねられ、曜日担当プロデューサーは「結果的にはそうですね」と答えている。一方の番組プロデューサーは、口止めについても全否定した。  坂本弁護士一家殺害事件が発生した11月4日から11日後の15日になって坂本弁護士一家「失踪」事件として神奈川県警が公開捜査に踏み切ると、「3時にあいましょう」内の報道局によるニュースコーナーで坂本弁護士のインタビュー映像を約10秒流した。しかし音声を消し、語った内容は放送されなかった。後のTBSの社内調査により、「3時にあいましょう」から報道局に映像が渡された時点で音声が消されていたことがわかっている。ワイドショーである「3時にあいましょう」はTBSの社会情報局、ニュースは報道局の担当だ。  11月24日の「3時にあいましょう」では、坂本弁護士インタビュー映像のうち、オウムを名指しで批判する部分ではない箇所が音声つきで放送された。その時点では他のメディアはオウム真理教の名を報じずに「宗教団体」と言った表記で、坂本弁護士一家「失踪」事件に関する疑惑を報じていた。  11月30日。麻原はドイツのボンで会見を開き、坂本事件との関係を否定した。これを受けて翌12月1日、「3時にあいましょう」は、坂本弁護士のインタビュー映像のうちオウムを批判する部分を音声つきで放送した。ところが、社内ではこの映像はその後使用禁止となり、同局の他番組も含めて使用されることはなくなった。  その理由は不明だ。そもそも番組プロデューサーと曜日担当プロデューサーがビデオを見せたことについて「ない」「覚えていない」と主張している以上、ビデオを見せたり放送を中止したりした理由、ほんの一部とは言え一度は放送した映像を以降「お蔵入り」にした理由を、彼らが語るわけがない。
次のページ 
浮かび上がったオウムとの「バーター疑惑」
1
2
3