しかし、こうしたタイの盛り上がりを、日本の釣り具市場はまだ活かしきれていない面も否めない。前出の「ガンクラフト」社の掛氏がこう話していた。
ガンクラフト社のブース
「バス釣りで見ると、20年前は日本国内の釣り人口が3000万人規模だったのに対し、現在は900万人規模にまで減りつつあります。一方、ユーチューバーの影響などで釣りを始めたいという人は着実に増えているんです。ただ、初心者向けのプロモーションが日本の釣り具業界は弱いので、その層を取り込めていません」
釣り熱が高まりつつあるタイは同時に2013年の観光ビザ緩和から、日本旅行がブームになっている。すでにブームから6年で、今や初級ルートを卒業したタイ人が多い。中には日本で釣りをしたいという人も現れているし、釣具店でグッズを購入するタイ人も増えてきているという。日本のフィッシングショーも外国人が増加している。ところが、たとえば日本の釣り船などは外国人受け入れの態勢が整っていないのも事実だ。せっかくの新規客層を日本のフィッシング業界は全般的に取りこぼしてしまっている。
しかし、逆に言えばこの弱点を克服することで日本の釣り具業界は飛躍的に伸びる可能性があるとも言える。釣りはジャンルが細かく、掛氏曰く「ジャンル違いは別業界」というほど、ターゲットが分散されて絞ることが難しい。その中では狙うべきは海外市場だ。特にタイのように未成熟でありつつ、受け入れ態勢が万全な市場なら今からでも入り込む余地はたくさんあり、ここで得たノウハウを日本の「釣りを始めたい」層を取り込む戦略に活かせる。
「ニシキ」の鈴木貴夫氏は最後にこう話す。
「タイ人釣り師のレベルは高いです。日本メーカーの模倣品が安く出回っていたりしますが、今のところ彼らは本物をほしがる傾向にあります。日本製は輸出入の経費がかかりますから日本よりも割高になるものの、それでも今は売れるんです。私は出張ベースで訪タイしていますが、たくさんのタイ人と釣りで繋がることができたので、今後も日本の釣りをタイに広めていきたいと思います」
日本のフィッシング業界は、特に小さな業者が世界に向かって動き始めたところだ。
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ガンクラフト社の製品
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白人の釣り師に対応する「ディーパーズ・ファクトリー」の日本人たち
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イベント会場では各メーカーやショップが持ち回りでイベントを開催。登壇するのは日本人プロ釣り師が多かった
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イベントでは船外機など、釣りに関係するあらゆる商品が展示販売された
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タイに生産拠点もあり、知名度も圧倒的なのはやはり「ダイワ」だった
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タイで最も有名と言われるプロショップ「セブン・シーズ」のブース
<取材・文・撮影/高田胤臣(Twitter ID:
@NatureNENEAM)>
たかだたねおみ●タイ在住のライター。近著『
バンコクアソビ』(イースト・プレス)