これだけ読むと順風満帆のように聞こえるが、まだまだ課題も多い。この手のeコマースのプラットフォームはもろに規模の経済の恩恵を受ける。逆に言うと規模の小さい段階では赤字を抜け出せない。現在の400万人の会員は収益規模にははるかに遠く、累積赤字は1千億円に達している。
『Quart』の「
Jumia’s successful billion-dollar IPO is a landmark—but it won’t gloss over lingering operational issues」(2019年4月19日)では信頼と配送の問題が書かれている。eコマースがまだ普及していないアフリカにおいては注文したものが届くことに不安を感じる人々は少なくない。この部分での信頼を確立するにはまだ時間がかかりそうだ。配送は外注業者に頼っており、正しく配送するためのノウハウはまだ確立されていない。
また、Jumiaが上場で高く評価されたのは、同社そのものの評価だけではなく、「
アフリカ市場にフォーカスした最初の企業」だということが大きかった可能性も拭えない(前述のInvestorPlaceの記事の意見はこれに近い)。2019年4月23日の『Quartz』の記事「
What makes us African is our exclusive focus on African consumers, says Jumia’s co-founder」では、Jumiaの共同創始者にインタビューし、この点についても質問している。
しかし回答は、もう少し時間が経たなければ投資した人々がなにを考えていたかはわからないだろう、という曖昧なものだった。
この記事ではJumiaのアイデンティティについても質問している。実はJumiaは100%アフリカを謳っているが、創始者は元マッキンゼーのコンサルタントでドイツで起業し、開発はポルトガルで行っている。主な株主も筆頭株主こそアフリカの通信会社だが、その他はドイツのベンチャーキャピタルやフランスの保険会社、イギリス、アメリカの企業などといった具合でアフリカ100%という謳い文句とは違う印象だ。本当にアフリカに根付いた事業展開ができるのかという懸念も出てくる。
『BBC』は「
Jumia: ‘Africa’s Amazon’ in landmark stock market listing」(2019年4月19日、)の中で国際的な運輸事業者のDHLが、アメリカやイギリスの小売業者をパートナーにした
DHL Africa eShopを始めたことに触れ、今後強力な競合相手になると指摘している。
このサービスを使えば世界各国の商品をアフリカでDHLの配送ネットワークを利用して入手できる。
Jumiaがアフリカ最初の巨大IT企業となるのか、それとも急成長するアフリカの歴史の中で忘れられてゆく存在になるか、これからの同社の今後に注目したい。
◆シリーズ連載「ネット世論操作と民主主義」
<取材・文/一田和樹>
いちだかずき●IT企業経営者を経て、綿密な調査とITの知識をベースに、現実に起こりうるサイバー空間での情報戦を描く小説やノンフィクションの執筆活動を行う作家に。近著『
フェイクニュース 新しい戦略的戦争兵器 日本でも見られるネット世論操作はすでに「産業化」している――』(角川新書)では、いまや「ハイブリッド戦」という新しい戦争の主武器にもなり得るフェイクニュースの実態を綿密な調査を元に明らかにしている