「異世界転生」という言葉に代表される「異文化扱い」
「小説家になろう」の話がネットに登場する際は、だいたい「異世界転生」という言葉とセットで語られることが多い。この言葉を、蔑視の意味で使う人も一定数いる。
異世界転生とは、以下のようなものだ。現代社会の人間が、事故などで異世界に転生して、現代知識を利用して活躍する。「小説家になろう」上で大いに流行り、亜種が多数生まれた。
こうしたフォーマットが形成されることは、コンテンツではよくある。時代劇、西部劇、スペースオペラ、刑事物、オカルト物。「そうした作品である」と読み手に提示すれば、共通の知識があるものとして多くの説明を省略できる。それはフォーマットに馴染んでいる人には分かりやすく理解しやすい作品となり、手に取りやすいものになる。
ネット小説、特に「小説家になろう」では、そうした新しいフォーマットが成立して共有された。それは特徴の1つではあるが、そうしたフォーマットとは無関係の作品も多い。同サイトを知らない人が、分かりやすいラベルとして「異世界転生」を選択して、利用しているに過ぎない。そうした人たちにとっては、ラベルを貼らないと説明できない「異国」「異文化」状態なわけだ。
「小説家になろう」「カクヨム」代表的な小説投稿サイト
小説投稿サイトは複数ある。そして場所によって少しずつカラーが違う。筆者は一時期、それぞれの違いを確かめるために、多数のサイトに投稿していた経験がある。有名なところを中心に、いくつかのサイトを紹介しよう。
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【小説家になろう】
株式会社ヒナプロジェクトの小説投稿サイト。2004年4月2日オープン。開設当初は個人サイトだったが、2010年に法人化した。昔からあるサイトなのでUIが古く、ガラケー時代のサイトに見える。
同サイトに掲載された人気小説を、出版社が文庫化するというビジネスが出版界を席巻した。そうした作品群を「なろう系」と呼ぶこともある。
読者評価によるランキングが常時公開されており、ポイントなどで外部からファン数が可視化される。出版社は、その数字を見て、見込み顧客数を確認してから書籍化を打診する。
投稿者間で人気争いをして、その中で勝ち残った人の作品が書籍化されるわけだ。私はこうした形態のビジネスを、個人的に「蠱毒ビジネス」と呼んでいる。
小説家になろうでは、コンテストなどで多くの出版社とコラボレーションをしている。ただ、先駆者である故のトラブルも多い。出版慣れしていない個人と、雑な対応をする編集者が接触した際のトラブルは、時折目にする。また出版後、続刊が出ないことで作者の心が折れ、連載が止まる現象も発生している。
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【カクヨム】
KADOKAWA系列の小説投稿サイト。2016年2月29日オープン。物凄い勢いで伸びている。
同サイトは、後発の強みを活かして、小説を投稿しやすいUIとなっている。単に小説をネットに投稿するだけなら、ここが一番楽だ。
はてなブログなどを運営している
株式会社はてなが開発を担当しているので、ユーザー投稿サイトの作り込みに慣れているのも大きいだろう。
はてなは、マンガビューワの分野でも存在感を示しているので、今後も出版社とのコラボレーションは増えるだろうと思われる。
また、カクヨムでは、
投稿者のマネタイズに乗り出すことを発表している。そうした面でも、今後注目のサイトになるだろう。
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【アルファポリス】
小説だけでなくマンガなど多ジャンル。2000年8月に設立。投稿された作品の書籍化ビジネスを手掛ける。
他のサイトにはない変わったところとしては「出版申請」がある。同サイト上でのポイントが高くなったタイミングで出版申請ができ、出版の検討してもらえる。書籍化が中心のビジネスであることが、このシステムからもよく分かる。
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【エブリスタ】
DeNAとNTTドコモとの共同出資企業。10年4月1日設立。
恋愛、BL系に強い印象。ライトノベルというよりは一般文芸寄り。
小説投稿サイトとしては珍しい「ページめくり方式」(多くのサイトはスクロール形式)。そういう意味では、Web小説よりも「紙」を嗜好しているイメージ。ただ、改行や1行の分量などからスマホ特化型と感じる。
同サイトは1ページずつ文章をレイアウトしていく方式のため、小説の投稿時に、PCで書いたテキストをコピペでまとめて貼るという方法が使えない。複数のサイトに同じ小説を投稿しようとすると、この仕様で挫折する。
エブリスタでは、1ページごと見栄えを考えて文章を練り込むことになる。そうした見せ方をこだわれるところが、男性よりも女性に受けている原因のひとつではないかと感じる。