妻を抑圧するモラ夫を選んでしまう女性とは? 30年の離婚弁護事例から読み解く<モラ夫バスターな日々9>

結婚前に相手のモラハラを見抜くのは非常に困難だという

弁護士・大貫憲介の「モラ夫バスターな日々」<9>

 夫からのモラハラ被害を受ける女性たちに共通の特徴はあるだろうか。  優しい、努力するタイプの方が多いようには思うが、日本女性は、概して、優しくて努力家なので、被害妻たちの共通の特徴とはいえない。気の強い女性、聡明な女性でも被害にあう。強いて言うと、奥床しい、自責的な傾向にある女性が被害にあい易いとはいえるだろう。ただし、どんな女性でも、モラ夫を選んでしまう可能性は常にあると言って差し支えないと思う。  モラ夫は、妻の非(多くの場合、ささいなこと)を執拗に指摘し、妻の控え目な性格、自責的な思いを徹底的に利用する。それは、ハードモラもソフトモラも同じである。妻が何か失敗すると、モラ夫たちは、その失敗をネタに妻を責め続ける。それを繰り返し、妻自身をして、「気が利かない」「ドジ」「私はいつも夫を怒らせる」と思い込ませる。

結婚に関するいにしえの教えには、有害なものも多い

 ところで、結婚生活に関する年配者の教えには有害なものも多い。  例えば、よく言われる「結婚前は両目を開いてよく見て、結婚後は片目をつぶれ」などは、その筆頭格であろう。まず、結婚前は、お互いに欠点を隠す。モラ体質の強い男性も、意識的/無意識的に、モラ夫であることを隠している。離婚事件を多数扱っている離婚弁護士ならモラ夫であることを見抜けるとしても、結婚前の若い女性が、いくら両目を開いていても、相手がモラ夫であることはわからない。  因みに、「結婚前両目」は、モラハラを受けた妻に対する、「あんたが選んだ男だろう」と反論する伏線であり、それ自体嫌みでしかない。  そして、結婚後、モラスイッチが入り、日常的にハラスメントを受けても、上記の教えに従えば、「片目をつぶって」我慢することになる。他方、モラ夫は、結婚後は両目を見開いて妻のあら捜しをし、モラハラを行う。結局、片目の教えは、妻に我慢を強いるだけの結果をもたらすのである。

モラ夫には「立ててあげる」は通用しない

 モラ夫は、妻が逃げられない状況に至った時、或いは、自分に自信ができたときにスイッチが入り、モラハラを始める。結婚、第1子、第2子の出生、マイホームの取得、勤務先での昇進などがスイッチとなり得る。  モラスイッチが入り、モラハラが始まったらどう対処するのがよいか。よくあるアドバイスは「夫を立てればよい」「我慢する」「反撃する」「諭して自覚を促す」などである。残念ながら、いずれも役に立たない。仮に、個別的にうまくいった例があるとしても、一般的には通用しない。  モラ夫は、我慢したり、立てたりすれば増長する。反撃すれば、更に強い反撃が返ってくる。「諭す」と「何を偉そうに言っているのだ」と更なるモラハラのネタになる。  モラ夫に対する対処方法は、ほぼないに等しいが、これについては、別の回に改めて述べる。
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被害を受けた妻たちの肉体・精神はこうなる
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