高齢者の運転スキルが低下する、もう一つの要因とは?
高齢者の運転スキルが低下する要因には、これら認知機能や身体的機能の衰え他に、もう1つ大きなものがある。
「クルマの買い替え」だ。
安全や地球環境のため、クルマは年々進化を遂げ、近い将来には自走し、空まで飛ぶようになるかもしれない。
その直前段階にある「今のクルマ」には、ひと昔前には存在しなかった便利な機能が多数搭載されているが、高齢者ドライバーの場合、長年乗り続けたクルマからこれらに乗り換えると「情報・機能過多」となり、逆に扱いづらいと感じることがあるのだ。
中でもよく聞くのが、「各ボタンの機能が覚えられない」、「音が静か過ぎてエンジンがかかっているのか分からない」、「バックモニターや警告音で運転に集中できない」といった声。個人的には、こうしたクルマの変化に順応できないくらいならば、クルマには乗り続けるべきではないと思うところだ。
ちなみに、60代半ばになる筆者の母親は先月、新車を購入した。「最新のクルマ」を「人生最後のクルマ」にできる「最高のタイミング」だと感じたからだという。
高齢者ドライバーの免許返納は、決して本人だけの問題ではない。彼らを取り巻く家族の日常にも大きく影響する。いわゆる「足問題」だ。
今回のような大きな事故が起きるたび、本人に免許返納を促すものの、その後の「足役」にならねばならないことを考えると、本人の「まだ運転できる」に流されてしまう家族も多い。
が、交通事故が有する「破滅力」を考えると、やはりどんなタイミングで免許を返納する・させるかは、家族間でしっかり話し合っておくべきであるし、本人の運転スキルがどれほどのものなのかも、家族で常に把握しておく必要がある。
どちらにしても近い将来、運転できなくなる日が来るのであれば、「クルマのない生活」に慣れるためにも、そして憎き事故を起こさぬためにも、「その日」は1日でも早いほうがいい。
各自治体による環境整備が充分だとは言えない現状ではあるが、その不便に目をつぶることは、運転中に目をつぶっていることと、もはや同義であると筆者は思う。
【橋本愛喜】
フリーライター。大学卒業間際に父親の経営する零細町工場へ入社。大型自動車免許を取得し、トラックで200社以上のモノづくりの現場へ足を運ぶ。日本語教育やセミナーを通じて得た60か国4,000人以上の外国人駐在員や留学生と交流をもつ。滞在していたニューヨークや韓国との文化的差異を元に執筆中。
フリーライター。元工場経営者、日本語教師。大型自動車一種免許取得後、トラックで200社以上のモノづくりの現場を訪問。ブルーカラーの労働環境問題、ジェンダー、災害対策、文化差異などを中心に執筆。各メディア出演や全国での講演活動も行う。著書に『
トラックドライバーにも言わせて』(新潮新書) Twitterは
@AikiHashimoto