「ゲームボーイ」生誕30周年。発売時期の知られざる『テトリス』権利争奪戦

ゲームボーイ発売時期の知られざる戦い、『テトリス』の権利争奪戦

 さて、今回ゲームボーイ生誕30周年ということで是非触れておきたい本がある。2017年10月に白揚社から出た、ダン・アッカーマン (著)、小林啓倫 (訳)の『テトリス・エフェクト―世界を惑わせたゲーム』だ。

『テトリス・エフェクト  世界を惑わせたゲーム』ダン・アッカーマン (著)、小林啓倫 (著)/白揚社

 まず、本の紹介文を引用しよう。 “1989年、任天堂がソ連へ送り込んだ一人の男――目的はゲームボーイ版テトリスの発売権獲得だった。ソ連政府との駆け引き、日米英ライセンス争い、法廷闘争……史上最も売れたゲームの驚きの誕生秘話。”  私はこの本を2018年に読んだ。冷戦時代を背景に、スパイ映画も真っ青の物語が展開していく。  鉄のカーテンから染み出すように西側諸国にやって来た謎のゲーム『テトリス』。新ハード『ゲームボーイ』のキラーコンテンツを探している任天堂。もうそれだけで、わくわくが止まらない。  それでは、話の筋を少し見てみよう。  冷戦で劣勢になったソ連。その研究所で働くアレクセイ・レオニードビッチ・パジトノフのもとには、低スペックのコンピュータしかなかった。しかし、そうした環境でも、彼の創作意欲は止められなかった。  パジトノフが作ったゲームは、最初は熱中できるものではなかった。しかし改良していくにつれ、麻薬のような中毒性を人々にもたらすようになる。研究所で蔓延したそのゲームは、徐々にコピーされて東側諸国に伝播していく。そして、鉄のカーテンを越えて西側諸国にも到達する。  何だ、このゲームは? 西側諸国でも、その中毒性にはまる人が続出した。そして『テトリス』の権利を争奪する、西側のプレイヤーたちが活動を始める。

任天堂が選んだエージェントはオランダ生まれの男

 任天堂がエージェントとして選んだのは、ヘンク・ロジャースという男だった。オランダのアムステルダムで生まれた彼は、ハワイ大学でコンピュータ・サイエンスを学ぶ。初期のTRPGに影響を受けた彼は、横浜で株式会社ビーピーエス(Bullet-Proof Software)を創業して、ファンタジーコンピュータRPG『ザ・ブラックオニキス』を作り、発売する。  ヘンク・ロジャースは、持ち前の豪胆さと押しの強さで、任天堂に出入りするようになる。そして、新ハードのキラーコンテンツ獲得に関わることになる。ソ連に一度も足を踏み入れたことがない彼は、任天堂の密命を受けて、異世界とも呼べる地に単身乗り込んでいく。  共産主義社会の中で、自由も著作権も主張できないパジトノフ。  世界各地で暮らした経験を持ち、時に山師のように振る舞う、自由主義の寵児ヘンク・ロジャース。  まったく違う世界で生まれ育った2人が出会うには様々な障害があった。しかし2人には共通点があった。それはゲームに対する熱い情熱だった……(以降の展開は、本でお確かめ下さい)。  西側諸国と東側諸国が対立していた時代、家庭用ゲーム機のビジネスが成長する時代に、私は少年期や思春期を過ごした。私のような人間にとって、この本は往時を思い出しながら熱中できる一冊となる。  そして特筆すべきは、人が持つゲームや創作に対する情熱だ。それらは、どんな社会でも芽生える。人間はそうした思いを通して、異なる社会の人たちとも分かりあえる。  本書を未読の人は、ゲームボーイ生誕30周年を記念して、是非読んで欲しいと思う。
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