peach / PIXTA(ピクスタ)
統一地方選挙で、演説をしている候補者をよく見かける。注意深く見ていると、候補者ごとに視線の外し方に特徴があることがわかる。
聞き手に向かってなかなか視線を外さないで凝視しているように見える候補者もいれば、こまめに外す人もいる。うなずくように視線を外す人もいれば、思いめぐらすように、上や斜め上に視線を外す人もいる。
筆者が実施しているビジネススキル実践力を向上させる演習プログラムの参加者に聞いてみると、うなずくように下に視線を外すと、その話し手の話に巻き込まれやすいと答える人が多い。
それも、フレーズごとにゆったりと区切って間(ま)をつくり、うなずくように理解を促したり、次に何を言うのか聞き手に期待させたりするという表現スキルを駆使していくと、相手を巻き込む効果が高まる。
右に向いてワンセンテンス話してうなずき、話しをやめてゆったりと間を置いているあいだに左を向いて、おもむろにワンセンテンス話してうなずき、右の聞き手も、左の聞き手も巻き込んでいく。
そうすることで聞き手の理解を求めようとしている、賛同を得たいと思っているというメッセージを伝えやすいのだ。
一方、こうした動作と好対照に思えるのが、中日ドラゴンズの元監督の落合
博満氏のアイコンタクトの外し方だ。スポーツ番組に出演して発言する際に、天を仰ぐように、上に視線を向けて、視線を動かすように話すことがよくあるように見える。
それはあたかも、その場で情景を思い出しているように、自分の考えそのものを絞り出しているように思えて、臨場感がある。借り物の、手あかのついた、使い古された言葉ではない、自分自身が今、その場で心の底から感じていること、本気で思っていることを伝えているというメッセージが伝わる。
以前も紹介したように、視線の外し方ひとつで、聞き手にメッセージを伝えることができるのだ。
だとすれば、その逆に、相手が視線をどのように外すかによって、相手が何を考えているか、汲み取ることもできるはずだ。
ビジネススキルを向上させる能力開発プログラムを実施していて、受ける質問に、「お客さまの本心がわからない」「若手が何を考えているかわからない」という類のものが増えている。
親しい間柄だったり、長く一緒に仕事をしてきた仲間であればいざしらず、お客さまが常に本音で話してくれるとは限らない。同世代であればともかく、異なる世代の人の気持ちが見抜けないということもよくあることだ。
そんなときに、相手が語る内容だけでなく、相手の視線の外し方で本音を見極めることができたら、その相手を巻き込むことがさらにできるようになるに違いない。
20年来演習するなかで、私が実施する能力開発プログラム参加者の視線の外し方とそれが伝えるメッセージには相関があることがわかってきた。もちろん例外はあるだろう。しかし、ひとつの基本の型として知っておけば、各段に相手を引き付けることに役立つ方法だ。