しかし、育児に当たっては、液体ミルクがあればとても便利だ。新生児は、睡眠が細切れで授乳の回数が多く、おむつ替えや着替えも度々しなければならない。お湯を用意して溶かして哺乳瓶に入れて冷まして……と何段階もの手順を踏まなければならない粉ミルクより、グッと楽になるはずだ。
実際、現在「内閣府男女共同参画局」の公式サイトにある
「乳児用液体ミルクの普及に向けた取組」では、こう明記している。
「夜間や共働き世帯で時間が限られているとき、保育者の体調がすぐれないとき、さらには母親が不在のときなどでも、簡便かつ安全に授乳を行うことができる」
「調乳用のお湯(70℃以上)が不要であり授乳に必要な所持品が少なくなることや、調乳を行わずに済むことから、簡便に授乳を行うことができる」
ただ、10年ほど前までは、「母乳神話」「安全性神話」といった考えが根強くあり、一般消費者でさえ、液体ミルクのメリットよりもデメリットに注目する傾向があった。
ところが、東日本大震災や熊本地震のときに液体ミルクが役になったことがきっかけとなって、流れが大きく変わった。
最初に高い関心が集まったのは、東日本大震災だ。ライフラインが断たれた被災地では、水がなかったり、あっても沸かすことができなかったりする状況が続いた。そんな中、そのまま授乳できる液体ミルクが注目されたのだ。
当時、フィンランド在住の日本人が現地の会社に掛け合って購入し、緊急救援物資として、簡易手続きで輸入を実現。震災から2週間半後には石巻市に第一弾の2000パック(約10万円分)を届けたという記録が、フィンランド大使館の公式サイトに公開されている。最終的には、計7回、1万4000パックを届けたという。
その後、2016年の熊本地震発生時にはフィンランドから緊急支援物資として液体ミルク約5000個が正式に送り届けられ被災地で使われた。この時、大使館関係者とともに被災地を訪れたのは当時、日本フィンランド友好議員連盟会長だった小池百合子都知事だ。そのことも関係しているのか、2018年に東京都は独自に、災害時に乳児用液体ミルクを海外から緊急に調達できるよう、イオン株式会社と協定を締結している。