外国人を「労働力」としか見ない日本政府。その一方で草の根で若者たちが広げる希望<安田浩一氏>

団地イメージ

※写真はイメージです  <ハッセル / PIXTA(ピクスタ)>

外国人労働者を喰い物にする日本

 ついに改正入管法が施行された。早くも東京電力が廃炉作業への「特定技能」資格の外国人労働者を受け入れる方針を表明するなど、安倍政権、そして財界がなぜ入管法を改正を急がせたのかが如実にわかる事態となっている。(参照:HBOL)  まさしく、日本は、外国人労働者を喰い物にしているのだ。 『月刊日本 5月号』では、第2特集として「外国人労働者を喰い物にし続けるのか」と題して、一人の人間としてではなく、人権を無視して使い捨ての「道具」のように扱う日本の問題点を指摘し、共生への道を模索する記事を掲載している。  今回は同特集内から、新刊『団地と移民  課題最先端「空間」の闘い』(KADOKAWA)でも多文化共生の最前線である団地の住民たちの姿を追った渾身のルポルタージュを上梓した安田浩一氏へのインタビューを転載し、紹介したい。

安田浩一氏の最新刊『団地と移民』(KADOKAWA)

日本はすでに移民国家だ

―― 改正入管法が施行されました。今後5年間で最大35万人の外国人労働者が日本にやってくることになります。しかし、日本社会は排外主義が強く、外国人を受け入れる準備ができていないように見えます。その原因はどこにあると思いますか。 安田浩一氏(以下、安田):一番の問題は、日本政府が「移民」の存在を認めていないことです。日本では1990年台から外国籍住民の数が急増し、いまでは250万人を超えています。今回の入管法改正をうけて「移民元年」や「開国元年」といった言い方がなされていましたが、それは間違いです。日本はとうの昔から外国人の受け入れを始めており、すでに内実としては移民国家になっていると言っても過言ではありません。  しかし、日本政府はこの事実を認めようとしません。日本政府は外国人を労働力としか見ておらず、外国人の暮らしをどうやって守っていくか、日本人と外国人がどのように共生し、暮らしやすい社会を作り上げていくかという発想がありません。外国人もまた一個の人格や人権を持った存在だということに考えが及んでいないのです。  これは日本に外国人政策を一元的に担当する官庁がないこととも関係しています。諸外国には「移民局」や「移民庁」がありますが、日本にはそれに代わる組織は入管しかありません。しかし、入管はいかに外国人を管理するかということばかり考えており、外国人の暮らしや人権には無関心です。  今回の改正入管法により、入管は格上げされ、出入国在留管理庁となりました。それはそれで構いませんが、単に外国人の数が増えるから締め付けを強くするというサインにしか見えません。これでは外国人と共生していくという発想が生まれるはずがありません。  もっとも、これは政府だけの問題ではありません。日本社会の中にも移民に反対する声があることは間違いありません。  たとえば、昨年10月には、ネット右翼が「反移民デー」なるものを設け、全国各地で一斉に街宣活動を行いました。今年4月の統一地方選挙でも、選挙に立候補したネトウヨたちが外国人の存在を否定し、外国人の排斥を煽る演説を行っていました。  彼らは声高に移民反対と言っていますが、日本もかつては移民送り出し国でした。移民先では差別や偏見にも直面しています。戦前のアメリカでは、日本人や日系人は強制的に財産や土地を奪われ、収容所にまで入れられています。  日本社会はこうした経験を持っているはずなのに、いまではかつて自分たちが受けてきた差別と同じことを外国人に行っているわけです。大きな矛盾を感じざるをえません
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多文化交流の最前線である「団地」
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月刊日本2019年5月号

特集1【消費増税凍結・衆参ダブル選挙へ】
特集2【外国人労働者を喰い物にし続けるのか】
特集3【楽天・三木谷浩史の光と影】



団地と移民 課題最先端「空間」の闘い

そこは外国人、高齢者をネトウヨが襲う「空間」と化していた。最前線ルポ!