国民の間に広がる諦観や無力感。揺らぐ民主主義の根幹<石破茂氏>

地方から新しい国を作る

―― 安倍政権は戦後最長の景気回復を実現したと述べていますが、国民の多くは景気回復を実感しておらず、とりわけ地方の疲弊は深刻です。今回の選挙では地方からどのような声が聞かれましたか。 石破:今回ものべ数十回以上、街頭で演説を行いました。「石破茂、来たる」という看板を立てると多くの人たちが集まってくれ、多いところでは400~500人の人たちが街頭演説を聞いてくれました。比率から言うと、中高年の女性がたくさんきてくれたという印象でした。  意外だったのは、赤ちゃんを連れたお母さんや、お孫さんを連れたおじいちゃん・おばあちゃんなど、子供連れの人が目立ったことです。これは初めての経験でした。  みなさん、おそらく「この子たちにはいったいどのような未来が待っているのか」と不安に感じておられるのだと思います。現在の日本はあまり子育てが楽な国ではないので、なんとかしてほしいという思いがあったのでしょう。  地方を回れば、そこで暮らす人たちが何を考え、どのような暮らしを送っているかがよくわかります。もしも北海道から九州・沖縄まで「有効求人倍率が1を超えました、景気はこんなに良くなっています」といった話をすれば、「それは違うのではないか」という声が出たことでしょう。 ―― 国民の間には無力感が広がっている一方、このままではいけないという思いもあります。特に石破さんの演説を聞きにきた人たちはそうなのだと思います。彼らも家族のために行動しなければならないと思うようになれば、声を上げるはずです。 石破:私はどこの演説会場でも、最後に明治維新の話をしました。明治維新の準備をしてきたのは地方です。いつの時代も、新しい国を作り、新しい歴史を刻むのは中央の権力者ではありません。なぜなら権力者たちは今のままが一番良いと思っていることが多いからです。新しい時代を作るのはいつだって地方です。地方の名もない民衆たちが歴史を変えてきたのです。  これは別に選挙用の演説ではありません。歴史を振り返れば、実際に地方が新しい世の中を作ってきたことがわかります。だからこそ多くの人たちに選挙に行ってもらい、この「戦い」に参加してもらいたいと思います。

ダブル選挙に大義はあるか

―― 安倍総理は消費税増税を凍結し、参院選にあわせて衆議院を解散するダブル選挙に打って出るのではないかと言われています。これで選挙に勝てば、また地方の声が無視される恐れがあります。 石破:ダブル選挙の可能性は以前から囁かれていますが、衆議院選挙をやるとすれば、その必要性、理由について、相当丁寧に説明しなければならないでしょう。  また、仮に消費税増税を凍結するのであれば、社会保障の財源はどうするのか。特に、今回手厚くすると言ってきた子育て支援をどう手当てするのかについて明確にする必要があると思います。  少子化の原因には様々なものがありますが、主な要因は、夫婦共稼ぎでお子さんがいる家庭のほうが、お子さんがいない家庭よりも経済的に苦しくなる、ということです。あえて非常に簡単な言い方をすれば、子どもがいる家庭といない家庭で、経済的な負担がそれほど変わらない、という状況を作らなければ、少子化は止まりません。そのための財源を消費税以外に見つけるとすれば、いったいどう設計するのか。  介護離職問題も深刻です。日本では「嫁が親の介護をするもんだ」といった風潮がいまだにありますが、介護はすでに専門職種であり、素人だけでできるものではありません。つきっきりで介護することになれば、仕事も辞めなければなりませんし、そうなると一家崩壊ということさえ起こります。  これに対して、ヨーロッパでは、全ての国ではありませんが、24時間365日のホームヘルパー体制が整っています。日本のような「寝たきり老人」という概念もないそうです。そのための財源として消費税などが使われているのです。  日本にも子育てや介護離職ゼロのために消費税を使ってほしいという声はたくさんあります。単に経済が大変だから消費税を上げないというだけでは、それこそ国民に正しい情報を伝えていることになりません。次の世代に負担を残さず、人々の幸せを高めるためにはどうすべきか、ということをもっと真剣かつ広範に議論しなければなりません。 ―― 世論調査を見る限り、国民は野党への政権交代を望んでいません。しかし、自民党を無条件で支持しているわけでもありません。多くの人たちが自民党はもっと国民の声に耳を傾けるべきだと考えています。その中で石破さんへの期待感が高まっていると思います。  石破:私が自民党幹事長だった政権奪還を成し遂げた衆院選においてすら、絶対得票率(有権者総数に占める得票数の割合)はおよそ25%でした。当時、私はすぐに幹事長通達を出し、25%以外の人たちがどのように思うかを考えながら行動するように、と伝えました。  4分の1の支持層と、どうにもならない野党がいる限り、政権基盤が揺らぐことはないかもしれません。しかし、それによって自民党が国民の気持ちから離れていくとすれば、恐ろしいことです。私はそのことを忘れずに政治に取り組んでいきたいと思います。 (4月9日インタビュー、聞き手・構成 中村友哉)
げっかんにっぽん●Twitter ID=@GekkanNippon。「日本の自立と再生を目指す、闘う言論誌」を標榜する保守系オピニオン誌。「左右」という偏狭な枠組みに囚われない硬派な論調とスタンスで知られる。
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月刊日本2019年5月号

特集1【消費増税凍結・衆参ダブル選挙へ】
特集2【外国人労働者を喰い物にし続けるのか】
特集3【楽天・三木谷浩史の光と影】