親に虐待されても、子どもは被害を自覚できるわけではない

虐待イメージ

タカス / PIXTA(ピクスタ)

子どもは「自分が親にされていることは虐待だ」と認知できるのか

 今年3月、静岡地裁は12歳の娘を強姦したとして起訴されていた父親に無罪判決を出した。4月には、中学2年の頃から娘に性的虐待をしてきた父親に名古屋地裁が無罪判決を出した。  子ども(未成年)の視点で見れば、自分がどんな法律によって守られているのか、性の相手が法律や条例でどんな罰を受ける恐れがあるかを知っていたかどうか自体、極めてあいまいだ。そもそも、子どもはリアルタイムで「自分が親にされていることは虐待や犯罪かもしれない」と認知できるだろうか?

自分を虐待してきた親への手紙 応募者の平均年齢は30歳

 1997年夏、筆者は親に虐待されてきた人を対象に、新聞や雑誌を通じて「親への手紙」を書いて応募してほしいと呼びかけた(※虐待の種類は不問)。  2か月ほどで9歳から81歳の男女が書いた300通以上が集まり、秋には100通分を収録した本『日本一醜い親への手紙』(メディアワークス ※当時。現・アスキー・メディアワークス)を刊行した。  翌98年には続編『もう家には帰らない さよなら日本一醜い親への手紙』も同様の公募で刊行し、2017年にも新たに公募して『日本一醜い親への手紙 そんな親なら捨てちゃえば?』(dZERO)を刊行した。  執筆者たちは過去の虐待についてのみ書いたのではなく、過去から現在まで続く虐待の被害と、それに対する自分の認識の変遷について書いていた。  採用の際、応募原稿の年齢を見て、その割合に応じて100通を選んで収録した。10代が全体の1割なら10代から10点を採用したわけだ。だが、採用された人の平均年齢は1997年版で29歳、1998年版で29歳、2017年版で34歳だった。 (※平均年齢は、採用者数から「年齢不明」を除いた人数の年齢の合計を有効人数で割って算出。小数点以下は切り捨て。年齢不明は、応募者の希望による)  3冊の有効人数の合計は、308名。  3冊の平均年齢の合計92歳から平均を求めると、30歳。  子どもの頃の虐待によって刻印された傷は、中年や高齢者になった後でも被害当事者を苦しめ続けているため、成人しても親の支配下から逃れるのも難しければ、親元から離れて暮らしたいと思っても自信をもてない人が少なくない。  その結果、「これは虐待だ」「逃げていいことだ」とはっきりと自覚するには、それなりに年月がかかってしまい、自覚しても、他人に相談したり、本に投稿することで「親バレ」するのを恐れてしまう。
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49歳で初めて性虐待を自覚する人も
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