シリア難民たちが、会津地方の伝統玩具「赤ベコ」を作った
シリア難民の作った「サカベコ」を手にする武颯選手
福島のJリーグ、福島ユナイテッドFCは3月24日、ホーム(とうほうみんなのスタジアム)で開幕戦を迎えた。
試合前の記者会見で、エースストライカーの武颯選手は「東日本大震災で、悲しんだ人がたくさんいます。その人たちのためにも福島のプライドをもって、勝利で終わらせたい」と決意を語った。
記者会見に参加した選手たちに、筆者は内戦で国外に避難しているシリア難民たちが作った「サカベコ」をプレゼントした。「サカベコ」とは、会津地方の伝統玩具「赤ベコ」に、福島ユナイテッドFCのユニフォームを絵付けしたものだ。
「べコ」とは牛のこと。つまり赤い牛の張り子だ。頭の部分を触ると振り子のように動く。かつて神社を建立する際に材木を運ばされた牛は、重労働で次々と倒れていった。「赤毛の牛だけが最後まで倒れずに仕事を成し遂げた」という伝説から、赤い牛は「無病息災」を意味するものとなった。そして、東日本大震災で脚光を浴び、復興のシンボルとなったのだ。
今回、シリア難民たちに「赤べコ発祥の福島にもサッカーチームがある」ということを話したら、「みんなで応援しよう」ということになり、福島ユナイテッドFCのユニフォームを赤ベコに絵付けし、メッセージも書いてくれたのだ。サッカーのユニフォームを絵付けしたものは、サッカー+べコ=サカベコと呼んでいる。
武選手は「遠いところから応援してくれてありがとうございます。自分はFWなのでゴールを決めたい」と目を輝かせた。
シリア難民の子供が作ったサカベコ
筆者が所属するNGO「JIM-NET」は、福島から「赤べコ」づくりの技術を学び、シリア難民たちに内職仕事を提供することを検討している。
東日本大震災が起きた2011年3月といえば、ちょうどシリアでも内戦が始まった時だ。こちらは、難民を670万人も生み出した。アサド政権を支持するのか、反対派を支持するのか、喧嘩どころか殺し合いをしてきたわけだ。
ロシアの後ろ盾を得たアサド大統領がほぼ反体制派を抑え込んで、治安は落ち着いてきたが、復興が進んでいるわけでもない。難民たちは、シリアに戻っても仕事がない、あるいは捕まえられるのではないかと恐れてか帰れないでいる。支援も打ち切られ、生活は厳しい。
シリア難民たちは小麦粉をお湯に溶いて糊を作り、和紙の代わりにアラビア語の古新聞を使って張り子を作っている。昨年の夏には、シリア難民の一人が来日し、会津の赤べコ屋さんから直接技術指導を受けることができた。
「平和になりますように」「優れたゴールキーパーがいれば勝てます!」といったメッセージから、将来の夢を描きこんだ子どもたちもいた。
内戦で手足を切断した子どもたちも絵付けに参加してくれた。福島とシリアの、復興への強い思いが共鳴する。