“人類最大の祭典”リオのカーニバルの根底にある「持たざる者たちの、支配への抵抗」

ブラジルが抱える問題点・矛盾点を訴えるサンバ

マンゲイラのテーマ 今年のマンゲイラのパレードは故フランコ氏への追悼を軸にして、「ブラジル史の知られざる偉人たちを讃える子守唄」をテーマにしたストーリー・サンバを制作。パレードは盛り上がり、270点の満点で創立91周年の名門が3年ぶり20回目の優勝を果たした。  約3,500人によって繰り広げられたマンゲイラのサンバ・パレードは、ポルトガル統治時代から現在に至るブラジルの歴史的な支配・弾圧・差別・偏見・搾取・貧困……現在もブラジルが抱える、複雑な社会的構造の問題点・矛盾点をいくつも訴えた。そして、1500年のポルトガルによるブラジルの「発見」は「侵略」であるとして、それ以降の「支配者が作った歴史」の裏で葬り去られてきた、歴史的なブラジルの勇者たちを讃えた。

極右政権への抵抗運動としても注目を集める

ロナウジーニョはリオ州知事とともにカルナヴァルのスタジアムに登場。ボルソナーロ大統領を支持し、投票を呼びかけるパフォーマンスは大きな批判を受けている

 今年のマンゲイラのパレードは「ブラジルのトランプ大統領」というあだ名で世界的に知られる、ジャイール・ボルソナーロ氏(63歳)が率いる極右政権への抵抗運動としても注目を集めている。  ボルソナーロ氏は2018年10月の大統領選で勝利。13年間続いた労働党政権の大規模な贈収賄汚職をはじめとした腐敗政治に対する国民の不信と不満を追い風にして当選した。新自由主義、反共主義を掲げ、女性蔑視発言、先住民やアフリカ系民への人種差別発言、同性愛者や宗教への偏見と否定など、その明確な排他的言動は海外のメディアでも幾度も報じられている。  同大統領は元軍人で、1964~85年の軍事政権時代を賛美。現政権の中枢に元軍人を多数起用している。またイスラエル・米国との共同政策も打ち出している。在イスラエル・ブラジル大使館を国際社会では首都と認められていないエルサレムに移動することも掲げ、アラブ諸国の反発を買った。今年3月末〜4月初頭にイスラエルを訪問しネタニヤフ首相と会談。嘆きの壁に同首相と共に手をつけ、祈りを捧げ、ヘブライ語で「私はイスラエルを愛している」とスピーチ。イスラム原理主義組織ハマスからの反発も報じられた。  過激な問題発言や急進的な傾向が内外で懸念され、大統領選を前にブラジル全土〜世界各地で大規模な反ボルソナーロ・デモが起きたのは記憶に新しい。治安維持のために武器制度の緩和、積極的な武力行使を辞さないことを表明した。故フランコ氏はこれについても批判していた。  同大統領の緊縮財政政策は物議を醸し、政治家である息子の政治資金問題も出ている。また、気候変動をめぐるパリ議定書からの離脱を表明するどころか、アマゾン地方に原発や水力発電所を建設する計画などが世界的な問題となっている。  現政権に対して懐疑的なブラジル国民は多いものの「急進的で強権的なメスを入れない限り、ブラジルは変われない」という思いとの狭間で、ブラジルは大きく揺れ動いている。
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生き残るための哲学としてのサンバ文化
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