拡大する格差、分断する社会。「劇場型政治」がもたらした負の産物<「言葉」から見る平成政治史・第5回>

思いつきで新規参入募集。でも新参者は冷遇するマッチポンプ政策

(トップテン)新規参入/堀江貴文(ライブドア社長) ”近鉄・オリックスの合併で5球団となったパ・リーグに、新たにライブドアと楽天が参入を表明。業種は両者ともIT関連の情報産業。おまけにライブドアが仙台・宮城球場を本拠地と定めたのに続き楽天も同球場を指名したためにNPB側は受け入れる1社をどちらかに決めなくてはならず、公開ヒアリングを開き選定を急いだ。結果は2004年11月2日のオーナー会議で楽天に決定となった。~『現代用語2005』野球の問題用語より~”  日本社会では予定調和と皆が慣れ親しんだ基準に立脚した分配が好まれ、肯定されがちだ。堀江はこの時期、本業のみならず球団買収、放送事業、政治と手広く新規参入を仕掛けた。既得権益の壁は分厚く、いずれも成就したとは言い難い結果に終わった。のち、2006年に堀江と村上ファンドの村上世彰が相次いで逮捕され、日本社会の新規参入者に対する風当たりの強さを見せつけた。堀江は今も宇宙、健康、オンラインサロンと新規参入を続け、若年世代のオピニオンリーダーになった。  社会と政治はどうか。人手不足が常態化し、大学新卒の就職率は過去最高の水準になった。だが、各種人気ランキングに並ぶのは、銀行証券、航空関係、商社、観光と以前と大きくは変わらない企業である(強いて言えば、マスメディアの地位低下は目立つ)。  また一般社団法人全国高等学校PTA連合会と株式会社リクルートマーケティングパートナーズが合同で実施した第8回 「高校生と保護者の進路に関する意識調査」 2017年報告書 によると、「高校生が就きたい職業ランキング」で安定した職業の代名詞である公務員は2位に位置している。ちなみに1位は教師だが、こちらも正規職で採用されれば安定職と考えられるし、全体3位、女子1位となったのは看護師だ。看護師も引く手数多の手堅い専門職の代名詞だとみなすことができる。興味深いのは、同調査の「保護者が子どもに将来就いてほしい職業」という項目でも、ほぼ同様で公務員が1位、看護師2位、5位に教師と当事者、保護者ともに安定した職業に対する人気が本人、保護者ともに高くなっている。  新規参入とリスクを象徴する起業はどうか。
平成の会社開業率/廃業率の推移

平成の会社開業率/廃業率の推移

 平成を通して、会社開業率と廃業率の推移を見てみると、会社開業率はバブル崩壊とともに一気に4.0%前後の水準に半減し、以後若干の変動は認められるがほぼ横ばいで推移している。加えて会社廃業率が会社開業率を上回る年が近年増加している点も注目すべきか。  日本は中小企業大国といわれるが、開業、つまり新規参入は廃業を下回り足元が揺らいでいる。同白書や定評ある国際比較調査の『Global Entrepreneurship Monitor』などでも、開業率の低さは世界最低水準であることが知られている(先進国の開業率はあまり高くないことを考慮しても、そのなかでも低位に位置する)。日本生産性本部が定期的に実施している調査「2018年2018年度 新入社員 春の意識調査」を見ても、加盟企業の新入社員のなかで「将来への自分のキャリアプランを考える上では、社内で出世するより、自分で起業して独立したい」という質問に対して、「そう思う」という回答は13.7%。2003年から導入された質問だが、質問導入の2003年に31.7%を記録して以来、ほぼ一貫して低下の傾向にある。対して、「そう思わない」という回答は2018年に86.3%、こちらはほぼ一貫して高い値で推移している。  政治の不人気と新規参入の乏しさも相変わらずだ。地方選挙にはいよいよ担い手不足が深刻化し、無投票やイレギュラーな統治の仕組みの模索も続くが切り札に欠く。「岩盤規制の緩和」とそれに伴う多分野における新規事業者参入は第2次以後の安倍内閣の切り札に思われたが、盛り上がりに欠く。それどころか、民泊を促進するはずの住宅宿泊事業法には利益相反関係にある旅館業法の事業者らからの巻き返しで、事業者に対して営業日数の上限規制(180日)がついた。  地方自治体が創意工夫と試行錯誤しながら、自ら稼ぐ存在になる競争を促すのがふるさと納税制度だったはずだ。だが、総務省の意に沿わない派手な振る舞いをする自治体が出てくるや否や、総務省は返礼品の上限規制を設け、ペナルティを課そうとするなど強硬な姿勢を見せている。海外の動向などを横目で見ながら、思いつきのように新規参入者を募ってみつつ、集ってきた見知らぬ新参者を冷たくあしたいながら、昔なじみに適度に新しいふりをさせたうえで新規参入の少なさを嘆いてみせる。まさにマッチポンプ的だが、そんなことを平成を通して、各所で何度繰り返してきたのかといえば、数えきれないほどである。

しぶとく残る「中二階」麻生。でも考案者のほうが「中二階」化

(トップテン)中二階/山本一太(参議院議員) ”次期リーダーのポジションにいながら、いまひとつ影がうすい自民党の有力者、具体的には平沼赳夫前経済産業相、古賀誠元幹事長、高村正彦元外相、麻生太郎総務相のビミョーさを表現したことば。小泉首相が使って脚光をあびたが、考案者は自民党若手で世代交代の切り込み隊長、山本一太参院議員。実に言い得て妙。~『現代用語2005』さまざまなことば用語より~”  ここで名前が挙がった自民党議員らはどうなったのだろうか。平沼は郵政選挙を機に自民党を離党。たちあげれ日本や日本維新の会、次世代の党と保守政党を転々としたのち、自民党に復党して政界を辞任した。宏池会の流れを汲み、道路族の一人だった古賀もまた小泉と対立を深める。平沼のように離党こそしなかったものの、2012年末の衆院選には出馬せず政界を引退した。麻生はその後、総理の座に就くが相次いだ失言などで政権は迷走。2009年の総選挙で敗北を喫し民主党政権誕生のきっかけとなった。だが、安倍を支え、有力派閥の長として第2次以後の安倍政権を支え、自身も長く副総理の座に着いたという意味においてもっとも順調な政治家人生を送ったといえそうだ。高村は第2次以後の安倍内閣で自民党副総裁を担い、政権を引退した後もとくに得意の改憲論議などで存在感を見せている。  ところで当時「中二階」などと口にした山本一太はどうか。その後、外務副大臣、内閣府特命担当大臣、参議院予算委員長など、政府自民党、国会の要職を務め、メディアの露出も多いはずだが、どこか華に乏しいところがある。最近も国会議員を辞して、地元群馬県の次期都道府県知事選挙に立候補すると報道されているが、平成末には本人自ら「中二階」に上がってしまった感は否めない。
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メディアと政治、黒い蜜月の萌芽
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