1階では債務者と債務者の母親が暮らしているようだったが、2階へと続く階段には人が一人通れるほどの獣道が1本伸びている。この獣道をたどると、そこには子ども部屋があった。
この部屋も周囲と同じくゴミ屋敷化に取り込まれてしまってはいるのだが、生活圏とゴミが完全に分離してあり、日々の暮らしが伺えた。それでも小さな机と椅子、ベッドの上程度にしか空間のない部屋にいたのは、高校生くらいの少年だ。
「こんにちは」
ありふれた挨拶のフレーズだが、突然ぶつけられた我々は少々面食らう。
というのも自分の家を取り上げに来た不動産執行人に対し、自ら挨拶ができる子というのは一年に一人でもいれば、その年は当たり年と言えるほどに少ないからだ。
「これは何ていうお仕事なんですか? 資格がいるんですか?」
人懐っこい少年は、「不動産執行」という仕事に少し興味を持っているようだった。
「貧乏でも、頑張ればなんとかなりますか?」と青年は聞いた
大抵の場合、ゴミ屋敷化の元凶は一人。そしてこのような環境が教育にふさわしくないのは想像に難くない。そのため子どもがいて大人が数人いるという状況であれば酷いゴミ屋敷化は防がれる、またはゴミ屋敷化した家から子どもを遠ざけるというのがこれまでの流れだった。
今回のケースでは既にゴミ屋敷化した状態の物件に債務者の母親が後から合流している点が災いしたのかもしれない。
不動産執行は、関わる人々との接触に広めの間合いを必要とする仕事でもあるため、少年の疑問に満足な回答もできぬまま執行は進む――。
もちろん前記の少年から与えられた質問には明確な答えがあるからこそ、モヤモヤとするものがあるわけなのだが、最後にぶつけられた質問には今も答えが見つからない。
「貧乏でも、頑張ればなんとかなりますか?」
どんな言葉や表現を用いた“答え”を用意すれば、彼の救いにつながったのだろうか――。
<文/ニポポ(from トンガリキッズ)>
2005年、トンガリキッズのメンバーとしてスーパーマリオブラザーズ楽曲をフィーチャーした「B-dash!」のスマッシュヒットで40万枚以上のセールスとプラチナディスクを受賞。また、北朝鮮やカルト教団施設などの潜入ルポ、昭和グッズ、珍品コレクションを披露するイベント、週刊誌やWeb媒体での執筆活動、動画配信でも精力的に活動中。
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