パチンコ業界を悩ませる「6号機の憂鬱」。その裏事情を解説する

1000万人のファンがいる業界。こんな現状で良いのか

 ここまで説明したところで、本論に入る。  ホールに設置されている旧規則機は、どんどんその設置寿命を終えているのに、その遊技機と入れ替える新規則機が市場に供給されない理由はなんなのか。  それは、メーカーが造ったパチスロ6号機が中々、遊技機の試験期間である保安通信協会(以下、保通協)の検査をパスしないからだと言う。パチスロメーカーの組合による日本電動式遊技機工業協同組合(以下、日電協)によれば、500型式以上のパチスロ機を保通協の検査に入れているが、その試験をパスした遊技機は20%にも満たないという。  遊技機メーカーは、1つの機種をホールに販売するにあたっても、多少仕様の異なる(時にはほとんど性能に差異がない)複数の「型式」を保通協に持ち込んでいる。世のパチンコホールに設置される遊技機が1機種であっても、その裏には何種類もの「失格機」が存在しているのだ。また保通協の試験にパスしたとしても、遊技機性能が市場に受け入れられないと想定される場合は、十分に「お蔵入り」もあり得る。  メーカーはこの保通協試験の「厳しさ」を強く訴えている。

出玉基準の厳しすぎる規制

 その一番の「厳しさ」は、新たな規則改正によって設けられた出玉基準。そもそも新規則においては、出玉の最大値が旧規則機に比べ大きく制限されているにも関わらず、1時間毎、4時間毎の差玉(遊技球やメダルの出たり入ったりする数)まで強く制限されているのだ。  パチスロ機の、遊技としての「出玉の波」も許容しないこの試験の「厳しさ」は、行き過ぎた規制ではないのか。パチンコ業界の訴えは深刻だ。 「それが規則であるのだから仕様がない。それが嫌ならパチンコ業界なんか潰れればいい」  そんな声も十分に承知の上で、それでも敢えて言えば、いまだ1000万人程度のファンを抱える業界であり、多くの企業があり、多くの人たちが働いている業界である。  パチンコ関連企業が多く集まる台東区東上野に事務所を構える、或る遊技機販社の社長に話を聞いた。従業員は5名の小さな会社だ。20年以上、取引先のパチンコホールに中古の遊技機を販売したり、逆にホールから中古機を買い取って他のホールや販社に転売したりしながら今まで何とか経営してきた。 「売る機械(遊技機)が無い。ホールが入れ替えなければ中古機を買い取る事も出来ない。ウチだけじゃない。知り合いのとこも、みんなモノが動かないと言っている。今までも厳しい時期はあったけど、それでもどうにかなった。でも今回は違う。このままなら来年の正月を迎えるのは厳しい」  これもまたパチンコ業界人のリアルな声だ。  国がIR(カジノ)の施策を推進するにあたり、セーフティネットである依存対策を講じる事に異論はない。しかし一方で筆者は、そもそも世間の風当たりが強いパチンコ業界が、国の依存対策のスケープゴートになってしまうのではないかと憂慮している。 <文・安達 夕 @yuu_adachi
Twitter:@yuu_adachi
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