ディマイオのこの発言から察せられるように、イタリア政府は中国との関係づくりはあくまで商業取引の発展を図るレベルで考えているようであるが、それに警戒心を抱いているのは、イタリアの国際政治研究所(ISPI)のアレシア・アミジニ(Alessia Amighini)所長だ。彼女は「単に経済面の繋がりという以上に、中国の公営企業との商活動は彼らが政治目的を含んでいるためにイタリアが弱体国家になってしまう可能性がある」と指摘している。
また米国の安全保障会議のギャレット・マリキス(Garrett Marquis)報道官は「中国が計画した一帯一路は中国の為のものだ。イタリア政府のそれへの支援がイタリアの市民にとって本質的に利益をもたらすようになることには懐疑的だ。長期的にはイタリアの世界における名声を傷つけることになるであろう」と語った。(参照:「
La Vanguardia」)
同様に、今回のイタリアと中国の合意を前に米国の今後の動きを警戒しているのは、ジオポリティクス誌『Limes』の創刊者ルチオ・カラチオロ(Lucio Caracciolo)である。彼は「米国はこの合意からイタリアを経済的に苦しめる可能性がある。米国の格付け企業がイタリアの負債のレーティングを下げて来るようになるかもしれない。あるいは米国との防衛についての見直しを迫るようになることも考えられる」と述べた。(参照:「
La Razon」)
五つ星運動と連立政権を組む北部同盟のマテオ・サルビニ(Matteo Salvini)も中国とのこの合意には反対はしていなが、一定の距離を置いているという。そして党として同盟は、覚書によって中国が(イタリアを)植民地化するようになることはさせないと促した。またサルビニは覚書の署名にも出席しなかった。(参照:「
El Pais」)
当初50の合意が予定されていたが、EUそして米国からの圧力もあって結局29の合意に縮小されて署名が訪問中の習主席とコンテ首相との間で交わされた。第五世代通信G5については合意から外されている。ディマイオはEUからの警戒心を緩める意味で「イタリアは先に到着したが、EUの他の加盟国を蹂躙するものではない。ヨーロッパにおいて一緒にできることは実行する意向である」と表明した。(参照:「
El Pais」)
今回のような覚書は中国は対ヨーロッパでは既にクロアチア、チェコ、ハンガリー、ギリシャ、マルタ、ポーランド、ポルトガル言った国々と交わしている。ところが、今回より注目されたのはイタリアがG7の加盟国であるということからである。
<文/白石和幸>
しらいしかずゆき●スペイン在住の貿易コンサルタント。1973年にスペイン・バレンシアに留学以来、長くスペインで会社経営から現在は貿易コンサルタントに転身
しらいしかずゆき●スペイン在住の貿易コンサルタント。1973年にスペイン・バレンシアに留学以来、長くスペインで会社経営から現在は貿易コンサルタントに転身