「公園の樹木を伐採から守る」との公約で誕生した東京・中野区長が、あっさりと方針転換!?

多目的広場で伐採予定の樹木

多目的広場の建設で失われる樹木や池。伐採前の2017年11月に撮影

「風雲急を告げているね。何がどうなっているのかわからないよ」  3月20日の午前11時20分。こう言いながら、小島延夫弁護士が法廷の控室に入ってきた。控室には、東京都中野区の「平和の森公園」を守ろうと裁判を始めた中野区民たちが待っていた。その区民たちも「議会の多数決は仕方ないにしても、直後の酒井区長の姿勢には本当に落胆した」と疲れた様子を見せていた。

公園の樹木の3分の2、1万7787本を伐採!?

草地広場。この半分が陸上トラックになる

草地広場。この半分が陸上トラックになる

 区立平和の森公園は、区と区民が協議して「みどりの広場と避難場所」にすると合意して、1985年に開園した公園だ。公園は、小さな児童野球場の周りをこんもりした林やザリガニが採れる池などが覆う「多目的広場」と、遮るものがいっさいない広大な芝生が覆う「草地広場」の2つで構成されている。都立公園がない中野区では、平和の森公園は区民の大切な憩いの場所なのだ。  ことの始まりは2015年3月。田中大輔区長(当時)が突如「公園に体育館と陸上競技場を新設する」と公表したこと。児童野球場も成人野球場に拡幅され、草地広場にも300メートル陸上トラックという中途半端な規模の陸上競技場が建設されることで、公園の樹木の3分の2になる1万7787本(間伐を除く)もの樹木の伐採をすることも明らかになる。  区民の一人である岩村信弘さんは「公園が公園ではなくなる」との強い危機感を覚え、同年6月に市民団体「緑とひろばの平和の森公園を守る会」(以下、守る会)を結成した。
中野区が作成した公園の再整備予想図。左側の草地広場(黄色い部分)の半分が陸上トラックになる (Large)

中野区が作成した公園の再整備予想図。左側の草地広場(黄色い部分)の半分が陸上トラックになる

 そもそも、区がここをスポーツ公園にする動機がヘンだ。区のホームページには「東京オリンピックを区民のスポーツ活動の意欲を高める機会として、平和の森公園をスポーツ公園化する」(概要)と明言している。肝心なことは、区民の誰もそんな声を上げていないのに、区長が方針を出したことだ。 「守る会」は、1万人を超える反対署名運動や区民アンケート、学習会などを積極的に展開したが、区は姿勢を変えなかった。そして区は2017年11月、多目的広場の中が見えないように一面を白い壁で覆い、2018年1月15日に多目的広場で伐採を開始した。  同年2月16日、中野区の住民5人が小島弁護士を代理人として、田中大輔区長(当時)を相手取っての住民訴訟を提訴した。請求の趣旨は「被告が『平和の森公園』の価値を減少させ、同公園の適正な管理をしないことが違法だと確認する」というもの。  提訴時、原告の1人でもある岩村さんは「公園は区民の財産です。区長にその財産を勝手にする権利はない」と闘い抜くことを語った。

「平和の森公園を守る」との公約を掲げた区長が誕生

住民訴訟で原告となる住民5人

住民訴訟で原告となる住民5人。左から「守る会」代表の杉英夫さん、岩村信弘さん、小林京子さん、山崎健太さん、根岸志のぶさん

 この住民の動きに追い風が吹いたのが、同年6月に行われた中野区長選挙だった。「住民の声を聞かない区のやり方を変える」と元中野区職員の酒井直人氏が立候補し、現職の田中氏を破り当選したのだ。勝因の一つは、酒井氏が「平和の森公園を守る」を公約の一つにしたことで、40以上もの市民団体が選挙運動を盛り上げたことにある。  酒井新区長の当選により、原告団は「酒井区長の推移を見守りたい」と、当面は主張を差し控える旨の上申書を裁判所に提出した。  大きな動きがあったのは昨年10月8日、中野区主催の第1回「平和の森公園再整備語る会」。定員60人の会場は区民で満席になり、酒井区長と意見交換が行われた。  60人の参加者は、10のグループに分かれてディスカッションを行った。その結果、10グループすべてが「草地広場に300mトラックはいらない。伐採もしない」等々、「守る会」が従来から出していた案に賛同する意見を出したのだ。  これを受け、翌月には区長もほぼ同様の案である「第二工区変更案」を区・建設委員会に報告した。岩村さんは「多目的広場は守れなかったけど、やっと草地広場が守られると安堵しました」と振り返る。あとは、それを区議会に上程し承認されるのを待つだけだ。  ところが今年3月15日の中野区議会で、提出された「変更案」は20対19で否決された。20票は自民党と公明党によるものだ。公明党の反対理由は「今回、区民のパブコメを取っていない」という手続き的なもので、開発の是非に踏み込んだものではなかった。
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議会の否決で方針変更。すでに伐採が!
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