このように泊発電所は、三号炉単機ですら
立地適格性に強い疑義があり、更に
多重防護は満身創痍といえます。この状態から適合性審査合格までまっとうな手段で達成するには、原子炉サイト内のゼロからの見直しと立て直しだけでなく、全道の送電網そのものへの
大規模な投資を必須とします。結果として要する費用は、泊3号炉の建設費を大きく上回ることになりかねません。そして
その投資は立地不適格によって水泡に帰する可能性が極めて高く無視出来ません。
このような切迫した状態では、日本原子力産業界の宿痾である国ぐるみの不正行為への誘惑は極めて強いものになりますが、その結果が福島核災害という国を滅ぼしかけた前例であって、そのような国家的不正行為を成し遂げる実力が北海道電力にあるとは考えがたいです。
まっとうな経営者ならば、このような金食い虫に固執せず、
天然ガス火力や
石炭ガス化複合発電(IGCC)といった高い経済性と信頼性を持つ発電手段に乗り換えます。それが合衆国でいままで生じてきたことです。今となっては、新・化石資源革命と再生可能エネ革命によって合衆国では
天然ガス、風力、太陽光によって原子力だけでなく石炭火力も駆逐されつつあるのが経済的合理的選択の結果(*9)となっています。
(*9:日本において再生可能エネは、
制度設計の大失敗によって量こそ増えたものの極めて高コスト化した迷惑電源となってしまったことから
再生可能エネ革命に失敗したと言うほかない。政策的にもたらされた再生可能エネバブルによって風発は、金融商品化に伴う乱開発でNIMBY<Not in My Backyard 迷惑施設>化し、太陽光に至っては極めて不健全な金融商品化しNIMBY化もしている。このような性質の異なる両電源が5年余りの時間をあけて同じ失敗を繰り返すことは世界的にきわめて珍しい珍現象といえる。再生可能エネ制度の健全化とそれに伴う低コスト化、公害の抑止を達した上での再開発は、必須といえる。
再生可能エネは、日本を除く世界では健全かつ順調に育っている)
建設からわずか10年、うち運転期間は2年でしかない、ほぼ新品の泊3号炉は、その建設が三菱重工を中心としたPWR陣営の原子炉建設能力維持のためという性格を持っていたこともあり、北海道電力にとっては諦めきれない心情は理解し得ます。しかしここまで述べてきたように、泊発電所再稼働への試みは、極めて高リスク、ローリターンの博打と化しており、経営上の合理性は全くありません。
北海道の需要家にとっても風発を中心とした再生可能エネと天然ガス火力、北海道の地域性からIGCCを中核とした電源整備を迅速に行うことによって質・量ともに優れた電力を安価に得られる事が望ましいです。
「原子力とは規制の上に成り立つ」ものです。原子力安全の論理を無視した政治遊びや失敗した経営者の保身やメンツのためのものではありません。いまがまさに選択の時です。
『コロラド博士の「私はこの分野は専門外なのですが」』第2シリーズ原発編−−番外
<取材・文/牧田寛 Twitter ID:
@BB45_Colorado 写真/
Mugu-shisai via Wikimedia Commons CC BY-SA 2.5>
まきた ひろし●著述家・工学博士。徳島大学助手を経て高知工科大学助教、元コロラド大学コロラドスプリングス校客員教授。勤務先大学との関係が著しく悪化し心身を痛めた後解雇。1年半の沈黙の後著述家として再起。本来の専門は、分子反応論、錯体化学、鉱物化学、ワイドギャップ半導体だが、原子力及び核、軍事については、独自に調査・取材を進めてきた。原発問題についての
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@BB45_Colorado
まきた ひろし●著述家・工学博士。徳島大学助手を経て高知工科大学助教、元コロラド大学コロラドスプリングス校客員教授。勤務先大学との関係が著しく悪化し心身を痛めた後解雇。1年半の沈黙の後著述家として再起。本来の専門は、分子反応論、錯体化学、鉱物化学、ワイドギャップ半導体だが、原子力及び核、軍事については、独自に調査・取材を進めてきた。原発問題について、そして2020年4月からは新型コロナウィルス・パンデミックについての
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