債務整理に向かったのは、高齢者に高値で健康グッズを売りつける店<競売事例から見える世界29>

騙し騙される人々

【騙す】だます――。 この言葉を調べ、短くまとめてみると「巧みな言葉・仕掛けなどを用いて、嘘や、偽物、それに纏わる一連の動作や行動などを本当だと思い込ませる行為。誤魔化して嘘を信用させる。あざむく。」といった内容に収めることが出来る。  一方でこの【騙す】には「他のことに気を紛れさせ、落ち着かせること」という意味合いもある。  確かに「騙し」にあうものも、「騙し」の渦中には、落ち着いて幸せな状態だ。  ところが一度、これは「騙し」である、「騙されていた」と視点が変わってしまうことで、今までの幸せや落ち着きは、なかったコトにされてしまうどころか、マイナスの評価にまで下落してしまう。  では、「騙されている」ということを知りつつも、幸せで落ち着いた状態を維持していくという考え方はどうなのだろうか――。

差し押さえで行ったとある店舗物件

 差し押さえ・不動産執行の現場では店舗に対する執行も少なくない。  今回ご紹介するのも店舗物件。ではあるのだが、建築当初の使用用途とは異なる使われ方をしているというもの。  通勤快速列車の停車もある某駅より徒歩3分、いわゆる駅チカ物件。過去には安売りスーパーとして近隣住民の食卓を支えてきたのだが、人口減の荒波と大型ショッピングモール一強時代には太刀打ちするすべもなく、数年前に閉店。  好立地ながらも買い手はつかず、選挙事務所としての期間貸が数回あった程度と安定した借り手にも乏しい状況のまま月日は流れ、やがては高齢者に健康グッズや健康食品を高値で売る店へと変貌していった――。  当該物件は届け出のない増改築が繰り返されており、痛みや雨漏り、シロアリ被害と状態は芳しく無いまま賃貸にまわされている。  執行に債務者が立ち会うことはなかったのだが、代わりに賃借人である高齢者に健康グッズを高値で売る店のオーナーがバツの悪そうな顔で応対してくれた。  まず案内されたのは高齢者を集める集会ゾーン。  外から内部が見えないようビッシリとガラス面に貼られているのは、近隣の高齢者を集めるために配布していたチラシ。そこには健康食品やグッズとの引換、おたのしみ抽選会などを謳う文言が確認できる。  広告塔として起用されていたのか、高齢者にも馴染みのあるタレント、演歌歌手といった芸能人が全面に押し出されたチラシもある。  人工芝が敷かれたこのスペースにはパイプ椅子が並べられており、その前には健康グッズを紹介するための演台、そしてその場での会計を可能にするレジスターと長机が配置されていた。
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騙されていると知りつつ居続ける「居場所」
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