なぜNHKは政権による嘘と誤魔化しに加担するのか<永田浩三氏>

NHK

mizoula / PIXTA(ピクスタ)

 3月1日の衆議院本会議で提出された根本厚生労働大臣の不信任決議案において、小川淳也議員が行った趣旨弁明の演説が、NHKによって本人の言葉を一切紹介されることなく、悪意あるようにしか思えない編集で報じられたことについては当サイトでも報じた通りだ。(参照:”小川淳也議員による根本大臣不信任決議案趣旨弁明を悪意ある切り取り編集で貶めたNHK”–HBOL”)  この例からもわかるように、いまNHKの報道が異常事態に陥っている。  22日発売の『月刊日本4月号』では、安倍政権に不都合な報道が抑えられ、安倍総理を持ち上げる「提灯報道」一色になり、「安倍様のNHK」と揶揄されることについて、第一特集で報じている。同特集から、長年NHKで活躍してきた永田浩三氏の論評を紹介したい。
月刊日本4月号

月刊日本4月号

「政府が右というものを左というわけにはいかない」

── 現在のNHKの報道をどう見ていますか。 永田浩三氏(以下、永田): 私は2009年に退職するまで、32年間NHKでディレクター、プロデューサーとして仕事をしてきましたが、現在ほどNHKの報道、特に政治ニュースがおかしくなったことはないと思っています。これは第二次安倍政権がメディアへの支配を強めた結果です。  いろんな段階を経て、今日の事態を迎えていますが、2013年10月に決まったNHK経営委員の人事から顕著になった気がします。JT顧問の本田勝彦さん、作家の百田尚樹さん、埼玉大学名誉教授の長谷川三千子さん、海陽中等教育学校校長の中島尚正さんの新任と、JR九州会長の石原進さんの再任を求めました。安倍色が露骨に出ました。  本田さんは安倍さんの家庭教師、百田さんと長谷川さんは安倍さんに近い保守派言論人、中島さんは安倍さんに近いJR東海会長の葛西敬之さんと懇意で、石原さんも安倍さんに近い人物です。NHK経営委員会が安倍政権に握られたと言っても過言ではありませんでした。  そしてその経営委員らによって、2014年1月、籾井勝人さんがNHK会長に選ばれます。籾井さんは、就任会見の場で、記者の質問に答える際、従軍慰安婦については「どこの国にもあったこと」と発言しました。もちろん、そうした解釈をする人がいないわけではありませんが、NHK会長の立場であれば、もう少し丁寧に正確に言葉を紡ぐべきです。  しかも、籾井さんは「国際放送については政府が右というものを左というわけにはいかない」と述べたのです。さらに籾井会長は、就任初日に10人の理事全員に辞表を提出させていました。  こうして、籾井体制になってから、NHKの政治報道は急速に政権寄りに舵を切っていきました。例えば、集団的自衛権に関する関連のニュースを検証してみると、与党側の主張の時間が114分だったのに対し、反論側はわずか77秒という極端な差が生まれました。  この年の夏に、籾井体制によるNHKの変質に危機感を抱いた元NHK職員らによって、籾井会長の辞任を求める署名活動が始まり、署名数は1500人を超えました。私もそのひとりでした。

官邸の意向を忖度する報道局長

── 籾井氏は2017年1月に会長を退き、米国三菱商事社長などを務めた上田良一氏が会長に就任しました。NHKの報道に変化は起きたのでしょうか。 永田:籾井さんのような失言はまったくなくなりました。籾井時代の異常事態から比べれば、はるかにましです。しかし、政治報道はどうかというと、安倍政権への忖度の度合いは一層ひどくなった気がします。  今年1月6日、新年第1回のNHK「日曜討論」では、野党党首が生出演する中、安倍さんのパートだけは収録済みでした。そこで、安倍さんは、辺野古の埋め立てによる環境破壊問題に関して、「あそこのサンゴを移しております」と語りました。しかし実際は、土砂投入エリア内でのサンゴ移植などまったく行われていませんし、土砂には赤土が多く含まれてもいました。この発言が事実誤認というか、嘘だったのは明らかです。  スタジオの聞き手は、解説委員室の副委員長とアナウンサー。安倍さんの発言は変だと気付くはずだし、質問するのが当たり前なのに、それをしませんでした。なぜこの異常な発言が垂れ流されたのか、NHKは今日まで問題点を検証する気配もありません。  統計不正の問題では、独自のニュースはそれなりに健闘しているものの、国会での野党の追及については、ほとんど伝えていません。実際の安倍さんはしどろもどろなのに、NHKのニュースを見ると、理路整然と答弁できているようです。これは粉飾もいいところです。また、森友学園、加計学園の問題については、NHKはせっかく取材をしたものをお蔵にしたり、大阪局報道部の相澤冬樹さんのような記者の活動の場を奪ったりしました。  2017年5月には、加計学園の獣医学部設置をめぐり、『朝日新聞』が「総理のご意向」などと記された文部科学省の文書が存在すると報じましたが、菅義偉官房長官は記者会見で「全く、怪文書みたいな文書だ」と述べていました。こうした中で、その文書が文科省で作成されたものであると主張する前文部科学省事務次官の前川喜平さんに最初に接触していたのは、NHKの社会部記者だったのです。NHKはどこよりも早く前川さんの単独インタビューをとることに成功します。ところが、それは未だに放送されないままです。  前川さんは5月25日に記者会見を開いて、文書は確実に存在していたと主張しましたが、その直前の5月22日、読売新聞は、前川さんが新宿の出会い系バーに出入りしていたと報じたのです。まさに、前川さんの会見直前に彼のイメージ・ダウンを狙った、官邸の意向を反映したようなちょうちん記事です。 ── 官邸の意向に沿わないネタを潰しているのは、小池英夫報道局長だと報じられています。小池局長は今井尚哉・首相秘書官と直接やりとりしているとも言います。 永田:NHKの報道の最大の弊害は、前の報道局長で、現在理事の荒木裕志さんと小池さんのラインだと言われています。私はいまも取材の量も質も、NHKは抜きんでていると思いますが、残念ながら実際に放送されるニュースは、似ても似つかないほど貧弱で劣悪なものです。取材現場と放送までの間のパイプがつまっているのです。この異常事態に、なにより現場は苦しんでいると思います。
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岩田明子記者の虚報
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月刊日本2019年4月号

特集1【安倍様のNHK】
特集2【官邸の東京新聞弾圧】
特集3【安倍偽装内閣】
特集4【3・11福島を棄てたのか】
特集5【日本にとって元号とは何か】