女性用のAIドールまで存在する。EXDOLLサイトより
世界に先駆けてAIドールの普及が進む中国だが、特有の事情があるようだ。中国在住のライター・吉井透氏は言う。
「そもそも、中国人はリアルドールへの抵抗が少ないんです。長らく一人っ子政策が敷かれていたため、避妊具をはじめ、性欲を処理するためのアダルトグッズはいわば政府の“お墨付き”を得て普及していった。今もエロ本は販売できないのに、街中に堂々とアダルトショップがある異様な国です。日本人よりも、アダルトグッズはより身近な存在なんです」
近年、中国でも高齢化社会が到来しており、高齢者人口は2億4000万人に達しているが、うち10%を独居老人が占めるなか(国家衛計委員会)、男性の独居老人たちの間でリアルドールが寂しさを紛らわせてくれる“伴侶”として人気を博しているというのだ。
こうした素地がまずあり、そこにテクノロジーの進化で高性能化した結果、AIドールが市場に受け入れられたというわけだ。
こうした状況に対し、性倫理に詳しい京都教育大学・関口久志教授は、中国のAIドールの隆盛は「歪な人口抑制政策の負の一側面ではないか」と指摘する。
「中国では一人っ子政策により人々の『リプロダクティブ・ヘルス・ライツ』、つまり人々が安全で満ち足りた性生活を営むことができ、子供を持つか持たないか、いつ、何人持つかを自由に決める権利を抑制してきました。男女の人口比率の問題もその権利抑圧が根源にあるといえます」
中国の男女出生比率は長期にわたり偏っており、’12年は女性100人に対し男性は117.7人に達した。正常な数字の範囲は105前後なので、明らかに人為的な操作によって生まれた社会問題だと関口氏は指摘する。
「セクサロイドとの性行為を、人間とのそれを含む多様な性行為のなかから自由に選択できる状況なら批判するべきではない。しかし、人為的に生み出された“結婚難民”にロボットをあてがうというのであれば悲劇そのものです。中国の場合、政策の一環としてセクサロイドなどの代用品を奨励していくというストーリーは十分あり得ます」
人口抑制策の負の遺産として生まれながらも、昨今ではビジネスとして大きな可能性を謳われている中国のAIドール。その勢いはとどまることを知らず、今後、新たな最新テクノロジーを導入しながらさらに成長していくだろう。
「AIドールは欧米でも開発が進んでいますが、中国は商品化までのスピードが速く、他のテック分野と同様、中国製が世界標準になる可能性もある」(河氏)
ラブドールと言えば日本製品が有名だったが、“中国性造2050”を経て、中国製のセクサロイドを我々が抱く日が来るのかもしれない。