「私は、『どうなっているんですか』と妻の弁護士に聞いたところ『「奥さまは、離婚を希望しています」と言われました。
妻が離婚を希望するはずもなく、弁護士が焚きつけたに違いありません。確かに、私たち夫婦は、若い頃の情熱はなくなりましたが、静かな愛に移行していたのです。
『妻と会わせてくれ。直接話したい』と頼みましたが、『それは無理です』とせせら笑われました。そして、『離婚理由は、モラハラです』と言われました』
この男性は、その後、私の事務所に相談に来た。
モラハラに心当たりがあるか聞くと、しばらく考えて、「そう言えば、上から目線、モラハラと言われたことはあります」、「妻はよい母ですが、よい妻とはいえません。家事、料理の手を抜くことがあり、私が思わずたしなめることもありました。そんなときにモラハラと言い返されました」と言う。
なるほど、モラ夫の疑いがある。試しに、
「あなたは奥さんが、最近、どんなことに興味があるかご存知ですか」と聞く。全く知らないと言う。「人間としての」妻には、あまり関心がないようだ。そして、最近は、妻と子どもたちは、夫抜きで、遊びに出かけていたという。
男性は、今まで身を粉にして働いてきたのだろう。他方、育児、家事は妻に任せきりで、コミュニケーションは不足していたようだ。
おそらく、「たしなめる」ために、妻を怒り、説教してきた。つまり、モラハラを繰り返してきたのだ。男性は、子どもが大学に合格するのを待って別居した妻の気持ちには、全く気付いていなかった。
日本の離婚は突如、妻から三行半を突き付けられるケースが多い
この男性と妻は、家庭に求めるもの、夫・妻に求めるものが根本的に異なっているのではないか。しかも、夫はモラハラを繰り返してきた。妻が逃げ出すのも無理はない。
このように、日本の夫婦の多くは、すれ違い、夫は「モラハラ」を繰り返す。夫が、「モラハラ」の意味を理解しない(或いは軽視する)一方、妻は、モラハラに苦しんでいる。
その結果、夫からすると、ある日突然離婚を突き付けられる。このような事案が日本の離婚の多数を占めているのである。では、「モラハラ」とは具体的にどんなことだろうか。次回以降で説明していきたい。
なお、読者のため、弁護士としての見通しを付け加えておく。
今回紹介した事例では、いずれ離婚が成立するだろう。財産分与として資産・退職金の半分を支払い、年金を50%分割することも避けられない。養育費、学費の負担もある。つまり、男性からみると、ある日突然、妻と家庭を失い、孤独な状況に置かれる。
そして、時をおかず、請求書が届くことになる。
マンガ/榎本まみ
【大貫憲介】
弁護士、東京第二弁護士会所属。92年、さつき法律事務所を設立。離婚、相続、ハーグ条約、入管/ビザ、外国人案件等などを主に扱う。著書に『
入管実務マニュアル』(現代人文社)、『
国際結婚マニュアルQ&A』(海風書房)、『
アフガニスタンから来たモハメッド君のおはなし~モハメッド君を助けよう~』(つげ書房)。ツイッター(
@SatsukiLaw)にてモラ夫の実態を公開中