医師の長時間労働、「上限規制」だけでは変わらない現実

徹夜で業務の「当直」、労働時間に算入されないことも

 どこからどこまでを労働時間に算入するのかという問題もある。夜間の当直は、本来の業務を行わずに待機しているだけであれば、労働時間に算入されない。しかし宮崎医師によると、当直も普段の勤務と同じように働いているのが実情だという。 「当直は、何かが起きたときに備えて待機している、要するに寝ているということになっているのですが、実際にはほとんど眠ることができません。ちょっと寝ようと思っても、30分経たないうちに呼び出しが掛かったり、救急車が来たりするんです」  こうした現状にもかかわらず、当直を勤務時間として扱っていない医療機関も少なくない。厚労省は、労働時間に算入されるかどうかの基準を見直しているが、当直が労働時間にならない限り、過重労働の削減は実現しないだろう。

「女性はいらない」時代は終わり

 医師の過酷な労働環境は、女性の排除にもつながってきた。医師の転職支援サービスを提供するメディウェルが医師653人を対象に調査を実施したところ、「医療の現場は男性でないと無理だと思う」といった声がいくつも寄せられた。女性の医師は、“体力面で男性に劣る”、“産休や育休を取得するから迷惑だ”と考える医師が少なくないのだ。  東京医科大学が女性の受験者を一律で減点したことに対しても、「必要な措置」が8%、「良いことではないが必要悪だと思う」が47%で、過半数が容認している。宮崎医師自身も差別にあったことがある。外科を志していたにもかかわらず、「女はいらない」とはっきり言われたという。  しかし長時間労働を放置して、体力に自信のある人だけが医師になればよいという考えは改めなければならないだろう。女性の医師が産休や育休を取得しても、働き続けられる環境の整備が必要だ。 「最近は男性でもワークライフバランスを求める人が増えてきています。長時間働けない人でないと医師になれない、外科には進めないとなると担い手が不足してしまうでしょう。誰もが長く働き続けられるような環境が必要ではないでしょうか」 <取材・文/HBO取材班>
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