「助けて!」収容者のSOSで駆けつけた救急隊を、なぜ入管は追い返したのか

支援者が再度消防署に連絡、救急車が到着したが……

 21時頃、入管側はやっとメメットさんの妻と弟だけを建物内に入れ、話し合いに応じることになった。話し合いは1時間にも及んだが、何の進展も見られることはなかった。話し合いを終えて出てきた妻は、疲れ果てて地面にへたり込んでしまった。  話し合いに応じたのは、処遇部門の2人と総務課の2人だった。話は平行線で、同行した弟が言うには「明日、内科の医者が来たら、メメットさんを診てもらう。外の病院に連れていくかはその時に判断する」の一点張りだったという。  再び支援者たちが消防署に連絡、22時10分ごろに救急車が到着した。 「どうか本人と会ってやってください!」 「病院に連れて行ってー!」 「お願いしまーす!」  支援者たちに声をかけられながら、救急隊は建物内に入っていった。「今度こそ」とその場にいた全員が固唾を飲んで見守った。メメットさんに助かってほしい。  しかし、いつまで待っても救急隊は外へ出てこない。40分が過ぎた。誰もがこの長さに不自然さを感じている時のことだった。 「救急車がいない!」  参加者の1人が叫んだ。道路に駐車してあったはずの救急車が消えていた。救急隊は、支援者やクルド人たちにバレないよう、別の扉から出て行ってしまったのだった。

入管職員「今日はもう説明はありませんのでお引き取りください」

入管の建物

この建物のどこかで、メメットさんは今も苦しんでいる

 参加者は一斉に抗議を始め、「収容やめろ」のシュプレヒコールをあげた。妻も力の限り声をあげた。病気を治してほしい、病院で診てほしい……たったそれだけのことを踏みにじられた妻の絶望は深い。  法務省によると、1997~2018年で17人もの死亡事件を起こしている。その中には医療ネグレクトが原因と思われるものも何件かあった。だからこそ、家族も支援者たちも必死になっているのだ。  深夜1時15分ごろ、多くの警察官に警備されながら、総務課の職員が拡声器を持って現れた。 「今日はもう説明はありませんのでお引き取りください。本人も寝ています。説明はさっき家族にしました。これで終わりです。失礼します」  誰もが「納得できない」と抗議する中、職員は建物の中に消えて行った。なぜこうまでして、頑なに病院に連れて行こうとしないのだろうか。支援者に抗議されて従うという前例をつくりたくないのだろうか。自分たちの権威のほうが、人の命より守りたいものなのだろうか。 <文/織田朝日>
おだあさひ●Twitter ID:@freeasahi。外国人支援団体「編む夢企画」主宰。著書に『となりの難民――日本が認めない99%の人たちのSOS』(旬報社)など。入管収容所の実態をマンガで描いた『ある日の入管』(扶桑社)を2月28日に上梓。
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