ベストセラーが助長する外国人への偏見。『日本が売られる』で書かれた「保険制度への“ただ乗り”」は実態なし

ベストセラー『日本が売られる』

ベストセラー『日本が売られる』(堤未果著・幻冬舎新書)

 ジャーナリストの堤未果さんの著書『日本が売られる』(幻冬舎)の内容の一部が、外国人への偏見を助長するものだとして、日本に住む外国人の権利を守るための「移住者と連帯する全国ネットワーク(移住連)」は3月11日、著作の内容の誤りを指摘した文書を公式サイトに掲載。発売元の幻冬舎にも書面を送付したと発表した。(参照:【お知らせ】堤未果著『日本が売られる』についてのファクトチェックを幻冬舎に送付しました–移住連

中国人がわずかな自己負担額で1500万円の治療を受けている?

 同書は昨年10月に上梓された。著名なノンフィクション作家の新刊とあり、かなり売れているようだ。2019年1月末には13刷まで版を重ねている。  移住連が問題にしたのは、第2章「日本人の未来が売られる」の中の「6 医療が売られる」という節だ。堤さんによると、留学生や会社経営者として来日した外国人が国民健康保険に加入し、高額の治療を受けているという。保険料をきちんと払っていないため、日本人の税金で外国人の治療費が賄われているというのが堤さんの主張だ。同書には、例えばこのような記述がある。 「特に中国人患者が多いC型肝炎薬などは、3か月1クールで455万円のところを、国保を使えば月額2万円だ。高額すぎて問題になった肺がん治療薬オプジーボなら、1クール1500万円が自己負担額月60万円、残りは私たち日本人の税金で支えてゆくことになる」(194頁)  移住連は、これに対し、「高額な医療を受けるために入国している外国人がいるという事実はほとんど確認されていません」と反論する。厚労省が2017年3月に実施したレセプト全数調査によると、外国人の年間レセプト総数1489万7134件のうち、「不正な在留資格による給付である可能性が残る」のはわずか2人。実際に不正な手段で医療を受けた外国人がいるとしても、ごく少数にすぎないのが実情だ。  また観光目的を除き、在留資格が3ヶ月を超える外国人には、健康保険への加入と保険料の納付が義務付けられている。保険料を負担している人が、保険を利用して治療を受けることには何の問題もない。  同書ではさらに、「在日外国人の多い地域では、治療費を払わず姿を消す患者も後を絶たず」(194頁)、「出生証明書さえあればもらえる42万円の出産一時金も、中国人を中心に申請が急増している」(195頁)と主張。しかし移住連によるといずれも根拠のない記述だという。

外国人への偏見を煽る根拠のない記述

 同書では、今後外国人労働者の受け入れが増えれば「今横行する医療のタダ乗りに加え、大量に失職する低賃金の外国人労働者とその家族を、日本の生活保護と国民皆保険制度が支えなければならなくなる」(195頁)といって危機感を煽っている。  しかし前述したように、「医療のただ乗り」の事実はない。またAIによって単純労働者の需要が減るとしても、多くの外国人が失職して生活保護を受給するようになるかどうかは定かでない。外国人への偏見を不当に煽るものだといえるだろう。
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中国人が医療保険にただ乗り?
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