「メダルレスパチスロ」は本当に普及するか? パチンコ業界が考える次世代遊技機の正体

CR機普及のようなホール側への「メリット」は?

 ホール側としてみれば、メーカーがいくら推奨しようとも、海の者とも山の者ともつかない「次世代遊技」にかまけている暇はない。  管理遊技機、メダルレス遊技機を業界全体に普及させていくには、何かしらのアドバンテージが必ず必要になる。  かつてパチンコ業界は、今回のような劇的な設備変更を行った経験がある。1980年代末から1990年初頭にかけて普及された、パチンコCR機の件だ。  これも当時、日工組をはじめとするメーカー側は提案し普及に努めた。当初はホール側の強い反対もあったが、今では日本全国のほとんどのパチンコ機はCR機になっている。  この普及の背景は複雑だ。すごく簡潔に説明するのであれば、CR機導入の最大の目的は、パチンコホールにおけるインのクリア(経理の透明化)を図る事である。「脱税天国」とまで言われたパチンコ業界の健全化を図る為、警察庁の積極的な後押しもあった。  莫大な設備投資を強いられるホール側は、やはり頑強にCR機導入に反対したが、結局はCR機の導入は全国的な広がりを見せた。  ただ、このCR機の普及には、分かりやすいアドバンテージが存在した。CR機に限り、行政側が射幸性を高める事を許し認めたのである。射幸性の高い遊技機は客に支持され、パチンコ店の売上向上へと繋がった。当初は設備投資に二の足を踏んだホールも、CR機の爆発的な人気に押され、導入に踏み切った。最終的には、当時のCR機の導入は、パチンコホールに莫大な利益をもたらしたのである。  しかし、今回の管理遊技機、メダルレス遊技機の普及において、射幸性の引き上げは許されるのだろうか。

現行遊技機の射幸性のさらなる引き下げの可能性も……

 それはとうてい無理な話だと思う。そもそもが、ギャンブル等依存症対策に資するという文脈での普及だ。射幸性と依存症の因果関係については、いまだ不透明な点も多く疑義もあるが、少なくとも現時点において警察庁は、射幸性の抑制が依存症対策に資すると考えている。 そのような状況下において、次世代遊技機の普及のためだけに、その論理を覆す訳にはいかない。  では、射幸性引き上げ以外に、何かしらのアドバンテージは考えられるか?  遊技機価格の低減はどうか。しかし前述のとおり、その点においても希望的観測は得られない。遊技機本体の価格が安くなるという目算も低ければ、逆にシステム料等のランニングコストが掛かってくるという憂慮もある。よって金額面におけるアドバンテージも考えにくい。  売上も上がらない。コストも下がらない。客側の視点においても、管理遊技機、メダルレス遊技機が、今の遊技機則下において爆発的な人気を得る根拠もない。今時点において、パチンコホール側に導入のメリットは皆無である。  さて、メーカーがこの管理遊技機やメダルレス遊技機をどのように普及していくつもりなのか。パチンコ業界は今後、この次世代遊技機をどのように扱っていくのか。他方、監督官庁である警察庁は何かしらの導入の後押しを考えているのか。  すべてが不透明ななか、筆者がもっとも憂慮しているのは、次世代遊技機以外の現行遊技機の射幸性のさらなる引き下げである。相対的に次世代遊技機の射幸性を「高める」ということだ。そんな事になれば、パチンコ業界はより一層の苦境に立たされる。 <文・安達 夕 @yuu_adachi
Twitter:@yuu_adachi
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