この「タイランド4.0」の成功の重要なキーはデジタル技術の活用だとタイ政府は考えている。タイもインターネット環境とスマートフォンの普及が進む。これを活用せずには高度成長はないと見るのだ。その中でタイ政府は「Prompt Pay」を2017年1月にスタートさせた。これは口座番号を必要とせず、スマートフォンから個人間の送金が行えるシステムのことだ。
「Prompt Pay」は独立したサービスとして存在しているわけではなく、タイ政府によって認可された銀行がリリースしているアプリの中にある機能のひとつになる。開始当初はおそらくピンときていない国民が大半だったのかあまり話題にはなっていなかったが、2018年には前年の6倍の取引量になっているという。
普及は特に銀行の力が大きい。認可された銀行は主要銀行ばかりなので、各行が大半の支店で行員をキャンペーン要員にし、特にATM操作に訪れる客にダウンロードを促したり、口座紐付けのサポートをしている。
銀行のATMも機能が増えてきて、窓口に並ぶ必要もなくなりつつある
最近はこのアプリがあればキャッシュカードがなくてもATMから現金を引き出せるようになった。これによってタイの生活が大きく変わったと言える。
例えば、タイの観光名物のひとつでもある屋台。ここでQRコードを掲げる店が散見されるようになった。これは銀行のスマートフォン用のアプリからQRコードを介して支払いを行う。屋台などは法人化していないことが多いので、現在は屋台主の個人口座で出入金のやり取りをするのだが、中国のようにキャッシュレスとなりつつある。
基本はタイに銀行口座がないと利用できない。しかし、「LINE Pay」に対応している店であれば、日本のLINEのIDでも支払いが可能だという。外国人もスマートフォンひとつあれば、タイ・バーツを持たなくても過ごせる場所になったのだ。
ペットを売る屋台のQRコード。屋台のほか、普通の飲食店やタクシーでもときどきQRコードを設置するところを見かける
QRではないが、口座番号を提示する店もある
とは言っても、完全普及まではまだまだ遠いのも事実だ。「Rabbit LINE Pay」のアクティベートのキャンペーンや、銀行行員によるアプリのダウンロードの勧めがいまだにあるということは、まだ使っていない人も多いからである。
バンコクは電車よりも路線バス網が発達しており、バスでも電子マネーでの支払いができるようにはなっている。しかし、その装置もいまだにカバーがかかったままで使われていないなど、本当のキャッシュレス化はずっと先になるだろう。
<取材・文・撮影/高田胤臣>