アジア圏でも普及したQRコード決済。でも「QRコード」って何か知ってる?

開発元のデンソーの苦労話

 QRコードという名前は、「クイック・レスポンス」に由来している。この技術の開発は、たった2人のチームで始まった。先行するバーコードは、一次元(横方向)にしか情報がない。QRコードは二次元(縦横)なので、より多くの情報を格納できる。  しかし、課題は速度だった。どこにQRコードがあるのかを高速で見つける必要があった。その解決のために考案されたのが、四角い形をした「切り出しシンボル」だ。
切り出しシンボル

これが「切り出しシンボル」

 QRコードの角には、「黒い枠、白い枠、黒四角」という形の四角形の記号がある。その「切り出しシンボル」の場所を探すことで、読み取り機械はQRコードの位置を特定する。実際に形になったものを見れば、簡単なものに見える。しかし、何もないところから、この仕組みを考え出すのには苦労が伴った。  問題解決のカギになったのは「帳票などで一番出現率が少ない図形」というアイデアだ。似た図形が多くあれば誤認識は増えて、読み取り時間が掛かる。エラーが少なければ、短時間で結果を出せる。  開発チームは、様々な印刷物を白黒に直して、その面積の比率を調べた。膨大なデータを蓄積して、「印刷物で一番使われていない比率」を突き止めた。それが「1:1:3:1:1」という比率だ。「切り出しシンボル」の形は、この数字を元に作られている。最終的に1年半の期間を掛けて、QRコードは誕生した(参考:道のり|QRコードドットコム|株式会社デンソーウェーブ)。

QRコードの生成や読み取りは、今では手軽な技術

 多大な労力の末に完成したQRコードは、今では社会になくてはならない技術として普及している。QRコード決済は、そうした普及の結果誕生した派生技術だ。QRコードは大きく普及したことで、生成や利用が非常に簡単になった。  スマートフォンでQRコードを読み取ったり、生成したりするのは、今では当たり前のことだ。そうしたプログラムを簡単に書くためのライブラリ(プログラムの部品)も充実しており、手軽に利用できる。前述の私が公開しているWebサービスも、そうしたライブラリを利用したものだ。  たとえば、前述の筆者のQRコード生成Webサービスでは、「jquery.qrcode.js」を利用している。このプログラムをWebページに読み込んだあと、「jquery(‘#qrcode’).qrcode(‘生成したいQRコードに入れる文字列’);」といった1行のプログラムを書くことでWebページに、生成したQRコードを表示できる。  古い時代には、同じようなことをWebページ上でしようとしても、こうした手軽なライブラリはなく、サーバーサイドで生成するものぐらいしか見当たらなかった。それらも使い勝手がよいとは、あまり言えないものだった。あるいは外部のWebサービスを利用するしかなかった。QRコードの普及とともに、手軽に利用できるプログラムが開発されて公開されていった。  QRコードは、スマートフォンでのURLの読み取りや、商品の管理、航空券、入場券など、様々な場所で利用されている。今はQRコード決済が賑わっているが、その他のサービスでの利用も今後出てくるはずだ。そうしたサービスが出てきた時には、QRコードがどこから生まれた技術なのか、思い出すとよいだろう。 <文/柳井政和> やない まさかず。クロノス・クラウン合同会社の代表社員。ゲームやアプリの開発、プログラミング系技術書や記事、マンガの執筆をおこなう。2001年オンラインソフト大賞に入賞した『めもりーくりーなー』は、累計500万ダウンロード以上。2016年、第23回松本清張賞応募作『バックドア』が最終候補となり、改題した『裏切りのプログラム ハッカー探偵 鹿敷堂桂馬』にて文藝春秋から小説家デビュー。近著は新潮社『レトロゲームファクトリー』。
やない まさかず。クロノス・クラウン合同会社の代表社員。ゲームやアプリの開発、プログラミング系技術書や記事、マンガの執筆をおこなう。2001年オンラインソフト大賞に入賞した『めもりーくりーなー』は、累計500万ダウンロード以上。2016年、第23回松本清張賞応募作『バックドア』が最終候補となり、改題した『裏切りのプログラム ハッカー探偵 鹿敷堂桂馬』にて文藝春秋から小説家デビュー。近著は新潮社『レトロゲームファクトリー』。2019年12月に Nintendo Switch で、個人で開発した『Little Bit War(リトルビットウォー)』を出した。2021年2月には、SBクリエイティブから『JavaScript[完全]入門』、4月にはエムディエヌコーポレーションから『プロフェッショナルWebプログラミング JavaScript』が出版された。
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