「合意なし」と報道された米朝首脳会談の、現場で見た意外な「進展」

金委員長「非核化について議論しないのなら、ハノイに来ていない」

メトロポールホテル

 会談が行われたメトロポールホテル近くの道路に掲げられた3国の国旗

 28日朝の首脳会談で、金正恩・朝鮮国務委員長が米国人記者の質問に答える場面がテレビ中継で世界に流れた。両首脳は午前8時58分に始まった会談の冒頭、記者団を招き入れ、両首脳の通訳が同席した。  韓国の衛星チャンネル「アリランテレビ」の中継によると、トランプ大統領は会談冒頭で、北朝鮮は「世界でも稀な経済大国」になることができると述べた。一方、金正恩委員長は「最終的にいい結果が出るよう最善の努力をする」と述べた。トランプ大統領は非核化交渉について「急いでいない」と語った。  冒頭の撮影を終わらせようとした時、米国人の記者が「トランプ大統領との間で非核化について合意できるか」と質問し、金委員長は「今答えるのは早すぎる。私は予測はしないが、悲観的なわけではない。良い結果が生まれるよう全力を尽くしたい」と答えた。自信に満ちた声だった。金委員長は「会談の時間が1分でも長くほしいので、この辺で」とも語った。  共同通信によると、「(トランプ米大統領と)今その話をしている」とし、「(記者団は)とても気になっているようだ」と苦笑した。「ミスター・キム、(会談成功への)自信はありますか」との質問には「直感では良い結果が出せると信じている」と話したという。  米CNNテレビによると、質問したのはワシントン・ポスト紙のホワイトハウス担当のデイビッド・ナカムラ記者。金委員長は会談の終了後にも、AP、ロイター、ブルームバーグの米国人記者3人の質問に、「米国が平壌に連絡事務所を開くのはいい考えだ」「非核化について議論しないのなら、ハノイに来ていない」と、いずれも通訳を介して答えた。やりとりを聞いていたトランプ氏は「素晴らしい答えだ。これは最高の答えだ」と絶賛した。  今回の首脳会談がベトナムの首都ハノイで開かれることは意義がある。朝鮮は中国とともにベトナム人民の戦いを支援し、韓国は米軍とともに戦争に参加した。そのベトナムが朝鮮戦争の終結と朝米の国交正常化へ向けた対話の場を提供したことには、大きな意義がある。 <取材・文/浅野健一(アカデミックジャーナリスト、元共同通信記者・元同志社大学大学院メディア学専攻教授)>
あさのけんいち●ジャーナリスト、元同志社大学大学院教授
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