「ご飯論法」が新語・流行語大賞トップテンに選出されるまで<短期集中連載・「言葉」から見る平成政治史>

流行語となった「政治」にまつわる言葉

 このとき注目してみたいのが「『現代用語の基礎知識』選 ユーキャン新語・流行語大賞」(以下、「新語・流行語大賞」)のなかの政治に関する言葉たちである。「新語・流行語大賞」は自由国民社が主催し1984年に始まった。毎年12月に『現代用語の基礎知識』収録の用語から自由国民社と大賞事務局がノミネート語を選出。選考委員会の手で表彰対象となるトップテン、年間大賞語が選ばれる。ここで取り上げられた言葉たちは、いつの時代も季節の風物詩として各種メディアでも取り上げられ話題になっている。  たとえば直近の2018年のトップテンには「ご飯論法」が選ばれ、上西充子さん(法政大学キャリアデザイン学部教授)/紙屋高雪さん(ブロガー・漫画評論家)の両名が表彰されている。ご飯論法とは上西の言葉を借りれば、「朝ごはんは食べたか」という問いに対して、「ご飯は食べてません(パンは食べたけど)」と返答するような、意図的に論点をずらして野党の追及をかわそうとする最近の政治の答弁を表現したものであり、直接には加藤厚労大臣が念頭に置かれたものであった(参照:「『朝ごはんは食べたか』→『ご飯は食べてません(パンは食べたけど)』のような、加藤厚労大臣のかわし方」上西充子、2018年)。  この「ご飯論法」の表彰理由は以下のとおりであった。 “裁量労働制に関する国会審議の中で加藤厚生労働大臣が行った、論点をすり替えたのらりくらりとした答弁をさして広まったのがご飯論法。加計学園問題で5月に参考人招致された柳瀬唯夫元秘書官、同じく加計学園問題について答弁する安倍晋三首相、森友学園問題で証人喚問に立った佐川宣寿前国税庁長官、その他巨大看板問題で追及を受ける片山さつき議員など、この「ご飯」は赤坂自民亭のメニューにあるのだろうか。さらに今年は「記憶にございません」の次世代フレーズ「刑事訴追の恐れがありますので差し控えます」も多用され、国民をあきれかえらせた。”(参照:「第35回 2018年 授賞語」)  「ご飯論法」という言葉の直接の字面は、とても政治を表現した言葉だとは思えないが、最近のすっかり軽くなってしまった政治を巡る言葉のやり取りを見ていると確かに言い得て妙だと思える。その一方で「流行語」という面からすれば、少し時代が下るとおそらくは「ご飯論法」なる言葉が政治を表現した言葉であることなど、あっという間に忘れ去られてしまうのかもしれない。そうであるからこそ政治について2018年を振り返るという意味では、そして社会がどのように政治を捉えたのかという視点に拠って立つときには、こうした言葉の存在は看過できないはずだ。平成という時代を振り返るという意味では尚更だ。  「新語・流行語大賞」で取り上げられる言葉たちというのは、時代時代をもっとも端的に彩る/彩った言葉たちである。そうであるがゆえに、あっという間に忘却されていってしまう。当然政治のみを強く意識したわけですらなく――むしろ政治的文脈は余興に過ぎない――、政治学や政界で正式に使われる「公式の政治の言葉」でもなく、いわば時代をもっとも鮮やかに切り取る「非公式の政治の言葉」なのである。

「平成」の4つの時代と「政治のことば」

 この「非公式の政治の言葉」群のなかから、平成元年つまり1989年から2018年までの期間に4つの時代区分を導入しながら、毎年ひとつ、ないしは複数の広義の政治に関する受賞語、ノミネート語を取り上げ、検討を加えることで平成政治を表現した「非公式の政治の言葉」を概観するというのがこの連載の狙いである。4つの時代区分とは1990年代、2000年〜2009年、2009年〜2012年、2012年〜2018年という一見アンバランスな区分である。  この区分は政治の変動と対応している。1990年代というのは昭和から平成の過渡期にあたる。1980年代の政治とカネの問題に端を発し、政治改革の必要性が自民党内部からも提唱され、選挙制度改革と非自民連立政権の誕生に結実し、長く続いた政治の五五年体制が終わりを迎えた。  1996年には初の小選挙区比例代表並立制を取り入れた衆議院議員総選挙が実施されるとともに、自民党連立政権が復帰し、1998年には現在の一府一二省庁制につながる中央省庁等改革基本法が成立する。平成政治の土台と基調が明確になるのがこの時期であった。  そして2000年代において、「自民党をぶっ壊す」と言った小泉純一郎率いる「新しい」自民党は派閥よりも世論を味方につける新しい政治路線を採用した。だが小泉路線の踏襲は難しかったのか、その後は短命政権が続き、2009年9月には鳩山由紀夫が率いた民主党政権への政権交代が起きる。2000年から民主党への政権交代までを第2期として扱う。  この民主党政権の時期を第3期とする。民主党は2000年代を通じて支持を拡大し、多くの新しい試みを政治の世界に持ち込もうとした。それらは幸か不幸か民主党政権のもとでは花開かなかったが、その一部は2012年12月の第46回衆議院議員総選挙を経へ再び政権の座に帰り着いた第2次以後の安倍政権で具体化することになった。第2次安倍政権から現在に至る時期を第4期として取り扱う。  なおこの4つの時代区分の背景には、政治とメディアに関する3つの時代区分が重なっている。
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「政治とメディア」に関する3つの時代区分
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