「ロードサイド」は「中心商店街」。イオン閉店で小さな町が下した異例の決断

イオン上峰店

イオン上峰店前の県道22号線沿い。この地はサティ出店後にロードサイド店や小規模ビルが並ぶ「町の中心」へと変貌を遂げた

 この2月28日で閉店を迎える佐賀県上峰町の大型ショッピングセンター「イオン上峰店」(旧・マイカル上峰サティ)。  前回の記事では、この大型ショッピングセンターの誕生により町にロードサイド型の「新たな商店街」が形成されたこと、そして近隣の競合ショッピングセンターのみならず「自らが生んだ足元の商店街」との競合にも敗北して撤退するに至った経緯について述べた。  かつて商店が少なかったこの町は、大型ショッピングセンターに加えて「ショッピングセンターが生んだロードサイド型商店街」のお陰で潤い、そしてその新たな商店街は「デフレ時代」に即したかたちで成長を遂げ、大きくなった商店街のお陰でショッピングセンター撤退による買い物難民の発生は免れた。  一方で、自治体側は「突然の閉店発表」に翻弄されることとなった。

「ロードサイドを『中心商店街』として活性化」

「大型商業施設の撤退」は自治体に瑕疵が無くとも市政や町政を揺るがす「一大事態」となることが少なくない。それは上峰町も同様であった。  以前よりも客足が減ったとはいえ、イオン上峰店は開店から24年間に亘って上峰町最大の商業施設であった。上峰町は佐賀県で2番目に面積が狭い自治体で、その面積は約12平方キロメートル、特に東西は僅か約1キロメートルほど。久留米と佐賀を結ぶ幹線道路が東西に走る同町において、イオン向かいのディスカウント総合スーパー、隣の家電量販店やスーパードラッグストアなどは町内であるが、同じロードサイド商店街内にあっても「町外」となる競合店も少なくない。仮にイオン撤退によりイオン周辺の店舗集積まで衰退してしまった場合、上峰町民の生活が不便になるのは勿論のこと、消費が町外の店に流出して町の税収も少なくなってしまう。  町もこれだけの大型施設が20年足らずで撤退することは想定していなかったとみられ、閉店発表の直後から対応に追われた。
2月28日に閉店するイオン上峰店

2月28日に閉店するイオン上峰店

 そしてイオンの閉店発表から1ヶ月後に出した答えが「イオンの土地・建物を町が譲受すること」だ。  しかも、上峰町は「イオンが生んだロードサイド型の商業集積」を新たな「中心商店街」であるとみなし、跡地を「中心市街地の核」とするために「中心市街地活性化事業」として再開発するというのである。  「ロードサイドの商業集積は果たして中心商店街なのか?」という質問を投げかけられると様々な議論が起こるであろうが、いずれにせよ現在はこのエリアが「町の商業の中心」であることは間違いない。  また、ロードサイド型商店街といえども、大手企業のみならず佐賀県内資本や県内企業がFC展開する店舗、また地元民が土地や建物を賃貸している店舗も少なくない。小さな町が地域経済を維持するためには、この「新たな商店街」は欠かせない存在なのだ。
イオン向かい

イオン向かいにはディスカウントストアや家電量販店が、並びにはスーパードラッグ、ファストファッション店などが立地するほか、地元資本の医療機関や温泉ホテルもある

 そもそも、サティがこの地へ出店した理由の1つは「自家用車、公共交通ともに利便性が高かったから」であった。  ここは佐賀と久留米を結ぶ幹線道路に当たるため路線バスの本数も日中1時間あたり2~4本と比較的多く、またロードサイドでありながら道はそれほど広くなく(基本は片側一車線)土地も平坦であるため、車を持たずに徒歩や自転車、バスで移動する住民の利便性も高く「町の中心」とするには都合良い。町としてもこれほどの好適地を逃さない手はない、という訳だ。  なお、現在の上峰町役場や町民センター、町営ゲートボール場がある「官庁街」はイオンから南に1キロメートルほどの、バスの本数が少なく田園などが多い地帯に立地するため、イオン周辺と比較すると拠点性には乏しかった。
立地関係図

イオン周辺の主なロードサイド型店舗と上峰町役場の位置関係。現在の役場は「町はずれ」であり、周囲に店舗などは少ない

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大型ショッピングモール撤退後のモデルケースになるか?
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