スペイン・バレンシア初のミシュラン一つ星レストラン、食中毒でお客が死亡の波紋

バレンシア初のミシュラン星獲得レストランだったRiff

 Riffのオーナー兼シェフのベルンド・クノーラー(Bernd Knöller)は、ドイツ生まれで15歳から料理の道を志してOchsen Hotelで修行。18歳になるとロンドンのInternational Kensington Hiltonに勤務。そのあとウェールズのGrosvenor Hotelへ。1982年にはデュセルドルフのミッシュラン2つ星のレストランWalliser Stubenに勤務。それからスイスのPark Hotel Beausiteを経たあと、ベルリンのレストランMaîtreでフランス人シェフヘンリー・レビーに師事して幅広い創作料理を習得。そのあと3年程料理から離れたが、その後復帰してドイツのジルト島の2つ星レストランNösseに勤務。  そして、彼がスペインでの足場を築くことになったのがミシュラン3つ星のペドロ・スビハナのAkelarreに1991年から働くことになってからであった。その後、1年半ほどピザのレストランに勤務したが、1993年にバレンシア市内にエル・アンヘル・アスル(El Angel Azul)をオープン。このレストランは非常に高い評価を得ていたのは筆者も記憶している。それからさらに一段飛躍する意味で2001年にRiffをオープンさせた。そして2009年には前述したようにバレンシアで最初にミッシュラン1つ星を獲得したのである。  Riffもエル・アンヘル・アスルの時と同様に高い評価を維持していた。スペイン版の料理評価レプソル・ガイドにおいても2014年に「2つの太陽賞」を獲得している。そしてバレンシアのホテル・飲食連盟では2015年にリフに美食評価賞を与えている。  バレンシアで彼は自らのレストランをオープンしてから25年になるが、これまで一度も問題を起こしたことがなく、シェフそしてオーナーとして自信をもって料理を提供して来たクノーラー氏にとって今回の事件によるショックは隠せない状態で、死因の原因が解明されて衛星管理局からも営業再開の許諾が得られるまで自主的に閉店を決めたそうだ。

競争激化するバレンシアの外食産業。Riffの復活は?

 しかし、仮にレストランの営業を再開させてもお客の信頼を取り戻すには相当の時間がかかるであろう。あるいは、もう再開できなくなる可能性もある。というのは、この10年余りバレンシア市内には新しいレストランの誕生が著しく、しかも比較的安価に料理を愉しめるようになっている。特に、週末はよく外食を好むスペイン人にとって安価で美味しい料理が愉しめるレストランが増えればそれだけレストランを選べるオプションが増える。  ミシュランの星付きのレストランというのは価格は相対的に高いことから、その分お客も限定される。それに加えて今回の女性が死亡する要因となったレストランということから、一部のお客は戻って来たとしても、去るお客も多くいるであろう。よって、レストランを維持するのに十分なお客を確保できるかとなると大いに疑問である。特に、バレンシアも景気は低迷しており、価格が比較的安価で、ミシュランで出す料理に比べそれほど見劣りしないレストランも続々と登場しているからである。  更に、Riffが抱える問題は、夫人が死亡した家族への賠償金の訴訟もこれから解決を迫られることになる。ミシュランにランキングされているという重荷がより一層これから彼に伸し掛かって来るであろう。 <文/白石和幸> しらいしかずゆき●スペイン在住の貿易コンサルタント。1973年にスペイン・バレンシアに留学以来、長くスペインで会社経営から現在は貿易コンサルタントに転身
しらいしかずゆき●スペイン在住の貿易コンサルタント。1973年にスペイン・バレンシアに留学以来、長くスペインで会社経営から現在は貿易コンサルタントに転身
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