もはや厚生労働省の役人を責めればいい問題ではない。 Mugimaki / PIXTA(ピクスタ)
統計不正が発覚して以降、政府の介入があったと思われる実態が明らかになるなど、異常な事態が進行している。
統計は国家の根幹であり、背おじの基本である。統計が不正確であれば、政策を誤り、政治判断を間違える。結果、国家は危殆に瀕する。
本日2月22日発売の『月刊日本3月号』では、こうした異常事態について、問題は正確な統計を作れないほど弱体化した官僚組織、統計を都合よく捻じ曲げる政治権力にあると喝破。それらを正さなければ「第二の敗戦」は避けられないとして、第一特集、第二特集ともに統計不正、GDP嵩上げの実態を追及する特集を組んでいる。
今回は、「統計不正は亡国の始まりだ!」と題する第二特集から、前衆議院議員の福島伸享氏の論考を転載、紹介しよう。
――通産省で統計行政に携わった政治家として統計不正をどう見ていますか。
福島伸享氏(以下、福島):大きく分けて二つの問題があります。まず一つ目は、厚労省が2004年から続けてきた毎勤統計の不正調査です。厚労省は500人以上の事業所を全数調査すべきところ、東京都だけ負担の少ない抽出調査に変更していたわけですが、その背景には
行政改革の弊害があります。
1990年代から始まった行政改革によって、
公務員の定員や予算が削減され続けてきました。世襲議員が多数を占める永田町の政治家たち、東大法学部出身者が多数を占める霞が関の官僚たちは、統計データを見て科学的に政策を検討することをあまり重視していません。その結果、必然的に統計は軽んじられ、
統計部門は各省の中で隅っこに追いやられ、定員や予算削減のターゲットになってきたのです。ここには、
キャリア官僚が自分たちのカネとポストを守るために統計職員を含むノンキャリアを減らしてきたという側面もあります。
毎勤統計について言えば、2001年の中央省庁再編によって厚生省と労働省が合併して厚生労働省が発足しましたが、力の弱い旧労働省系の予算が減らされてしまい、本来行うべき全数調査ができなくなったという事情もあったのではないかと思います。
統計部門の定員や予算削減は厚労省だけではなく、中央省庁から地方自治体まで行政機構全体の問題です。総務省によると、日本の統計職員は2018年4月時点で
1940人にすぎず、2009年から半減しています。人口当たりの統計職員の数を見ると、日本は各国と比べても異常に少ない。人口が日本の3倍近い
アメリカは1万4000人超、人口が日本の半分程度
のフランスは2500人超、人口が日本の3分の1程度の
カナダは約5000人の統計職員を擁しています。
統計問題の本質は、
日本の政治家と官僚が統計の重要性を理解していないことにあります。単に厚労省をバッシングすればいいという話ではない。しかし、たとえば
小泉進次郎は「厚労省はガバナンスが効いていない」などと厚労省を批判するだけで、そのうち「民間委託」などと言い出すはずです。しかし、これは後で詳しく述べますが、統計は公権力の行使そのものであり民間に委託すればよいというものでは断じてない。
――今回の統計不正はアベノミクス偽装ではないかと疑われています。
福島:もう一つの問題は、政治的意図の有無です。厚労省は2004年から全数調査すべきところ不正に抽出調査を行っていましたが、このとき全数調査を行った場合と同様の数値になるように
「復元」という統計処理を行っていませんでした。ところが2018年1月から
突如として復元を行い、その結果いきなり賃金の数値が上振れしたのです。
問題は、
厚労省がそれまで復元を行ってこなかったことを公表しないまま密かに毎勤統計に復元を加えるようになったこと、しかもそれが
アベノミクスの成果を偽装する効果を生んだことです。厚労省は「毎勤統計が抽出調査で行われていたことに気づいたから、全数調査の数値に近づけるために復元を行うようにした」と言っていますが、それならば自らの責任回避を行動原理の第一とする役人の本能からして、一連の事実関係を公表した上で復元を加えることが通常の行政プロセスです。
そうしなかったところに、何らかの政治的意図が働いたのではないかという疑いを持たざるをえないわけです。この点は国会で厳しく追及しなければなりません。