安倍首相「家から通えるイージス・アショア」答弁の無知と詭弁と恐ろしさ

「先制攻撃対象の街」になるという意味

 そういった中で泉健太氏と安倍晋三氏の間で交わされた質疑での安倍晋三氏の答弁が冒頭の「自宅から通える弾道弾迎撃基地」です。  そもそも、イージス・アショアは陸自担当なので海自は直接関係ありません(出向支援はあり得る)が、そういうことも分からないのでしょう。  ここで、合衆国コロラド州コロラド・スプリングス市滞在・在住時のスナップ写真を二枚ご紹介します。
Colorado Springs

Holiday Inn Garden of The Gods, Colorado Springs, CO, USA付近の工業団地より撮影したシャイアンマウンテン 北米防空司令部(NORAD)が地下にある 2000/11/21撮影

コロラド・スプリングス風景

著者在住(当時)のアパートメントでのスナップ写真 背後にシャイアンマウンテンが見える。隣人として空軍将校が多数居住。子供が頭につけているのは聴覚過敏対策のノイズキャンセリングデヴァイス。2004/5/27撮影

 コロラド・スプリングス市は、市域人口42万人の大きな都市ですが、空軍大学、空軍基地に加えて北米防空総司令部(NORAD) や軍需産業、半導体・情報産業、州立大学、私立大学、様々な宗派の教会が多数集まっています。  米ソ冷戦時代からNORAD=シャイアンマウンテンは、最重要の先制核攻撃対象とされてきており、地球が核の炎に包まれるとき、アラスカの早期警戒レーダーの次の順番でシャイアンマウンテンは最大威力級の核による地表爆発に見舞われます。北朝鮮もコロラド・スプリングスを最優先先制核攻撃対象と表明しています(*4)。コロラド・スプリングス市民は、せめて苦しまずに死ねるから仕方ないと先制核攻撃については諦観(ていかん)しています。 *4:North Korea threatens to strike Colorado Springs but doesn’t know where it is. Washington Post. 2013/4/12  自宅から通える戦略的軍事施設、とくに弾道弾迎撃基地というものは具体的にはこのような情景となります。コロラド・スプリングスの場合は、複数の大型核によって蒸発しますから逃げようもなく多くは苦しみもないのでしょうが、中途半端な爆発規模の複数の核による攻撃を受けるイージス・アショアは、基地だけでなく「自宅」も一瞬では蒸発しきれずに、甚大な被害と塗炭の苦痛を受けることになります。特に秋田市の場合は、コロラド・スプリングス市と同じく、全市が壊滅することとなりますが、瞬時での全市蒸発とはならないでしょう。萩市の場合は、市街域そのものは離れていますが、フォールアウト(死の灰)の影響を受けます。  安倍晋三氏の答弁には、兵器の中途半端なカタログスペックと詭弁による言い逃れ以外の何もありません。  このような薄っぺらな答弁で、日本防衛の役に立たない代物を1兆円の日本市民のお金で合衆国軍需産業に貢ぎ、その見返りに安倍晋三氏がトランプ氏からの個人的歓心を得て日本は最優先の先制核攻撃となる。とても独立国の首相答弁とは考えられません。  いまだに垂れ流される詭弁として、イージス・アショアで護衛艦隊が楽になるのでイージス・アショアは安いというものがあります。まず、MDイージス配備開始時にはイージス艦は4隻しかなく、当時のMDイージスは日本海に二隻配備が必須であったために護衛艦隊への運用上の負荷はたいへんに大きなものでした。  しかし、護衛艦隊のイージス艦はまもなく8隻体制になります。また、MDイージスは最新型に改修が進んでおり、MDイージス艦一隻の日本海展開で日本全土を防衛出来ます。もちろん、迎撃成功率を上げるためには2隻展開すべきですが、平時のMDパトロールは一隻で十分であり、護衛艦隊の運用への負荷は軽微です。
洋上配備イージスMDによる北朝鮮MRBM迎撃シミュレーション

【洋上配備イージスMDによる北朝鮮MRBM迎撃シミュレーション】
濃黄色は現行のイージスMD(LOR)
淡黄色は能力向上イージスMD(EOR)
理論上は、一隻の展開で十分と示されている(確実性のためには2隻展開が望ましい)
pp3-20, Making Sense of Ballistic Missile Defense: An Assessment of Concepts and Systems for U.S. Boost-Phase Missile Defense in Comparison to Other Alternatives, 2012, National Academy of Sciences

「イージス・アショアで護衛艦隊ラクチン」という珍説は、1兆円でカタログスペックだけの役に立たないガラクタを配備して、萩市、秋田市、東京都心、立川市を先制核攻撃の対象にする理由にはとてもなりません。  また、中国と北朝鮮の二正面戦争の時にMDイージス艦を日本海に貼り付けるのはもったいないからイージス・アショアが必要というもはや詭弁にすらならない弁明まで現れていますが、そもそも論として、北朝鮮、中国と二正面戦争するようでは、国は滅んでしまいます。政府の公式見解では長年常に「中国を脅威と見なしていない」と答弁してきています。2016年8月5日参院安保法制特別委員会でも岸田文雄外務大臣は、「我が国は中国を脅威とみなしておりません」という従来からの答弁をしています。そもそも、国連安保理常任理事国と敵対して戦争を企図することは、旧敵国条項対象国である日本にとっては自殺行為以外の何物でもありません。  私は、対中防備を否定はしませんが、1兆円のガラクタを市民に強請(ねだ)るのではなく、無理なく出来る範囲で防備を整備し、対中関係を良好に保つのが為政者の仕事です。そもそも、主役である外交はどこへ行ってしまったのでしょうか?軍事は外交の一環でしかありません。軍事あって外交なしは本末転倒で、旧帝国滅亡の主因です。
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防衛とは軍備だけにあらず
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