・メディア・ミラージュ
今回の発見の中でふたつのレポート両方で特に言及とされていたのが
メディア・ミラージュと呼ばれる手法である。
これは
WEBサイトと各種SNSプラットフォームを連動させ、ひとつのブランドなどを露出することで、その信憑性を高めるやり方である。「なにかを調べる際は複数の情報源を参照するようにすべき」とはよく言われることだが、それを逆手にとった形だ。
特に地方紙(アメリカでは地方紙に対する信用が高い)のサイトで同じ情報が掲載されていたり(もちろんその地方紙はIRAが作ったニセモノである)、ある程度有名なサイトで紹介されていたりすると信用しがちだ。しかし、そこにはトリックがある。有名なサイトでもIRAのねつ造サイトに紹介されると、そのお礼にIRAのサイトを気軽に紹介し返したりすることがあるのだ。
このメディア・ミラージュによって、IRAは巧みに投票者の信用を勝ち取っていた。
・絞り込まれたターゲット 黒人、右(保守)、左(リベラル)
IRAのターゲットは黒人を中心に、右(保守)、左(リベラル)などに絞り込まれている。世論の分断を狙いやすいターゲットということだろう。特に黒人に集中しているのはこの中でも世論の分断を行いやすいことと、広告料金が安いことがあるようだ。
・文化的浸食
今回のレポートではIRAがアメリカ大統領選挙の数年前からすでに活動を開始していたことが指摘された。そこでよく用いられたのは
ミームである。単純で直感的にメッセージが伝わり、シェアされやすいことがその理由だ。レポートには多数のミームの事例が掲載されており、アメリカ人なら何度も目にしたことがあるのだろう。
・3つの方法で選挙に干渉
IRAは大きく3つの方法で選挙に干渉していた。ひとつは
トランプ支持、もうひとつは
反ヒラリー、そして最後のひとつは
選挙妨害だ。選挙妨害にはさらに2種類あり、反トランプあるいはヒラリー支持者に対して
「選挙なんて意味がない」と訴えてボイコットさせるものと、
投票方法や投票場所など間違った情報を流して投票できなくさせようとするものだ。
・不可視化の進行
フェイスブックやツイッターでの活動がSNSプラットフォームに検知、妨害されるようになるとインスタグラムに移行したり、アメリカ国内在住者の協力者のリクルートを始めたりしている。今後、SNSプラットフォームは対策を立場上、対策を講じざるをえなくなっているし、アメリカ政府も対策に本腰を入れてくるだろうが、活動を不可視化して回避する方法をIRAは常に用意しているように見える。
もともとネット世論操作の要諦のひとつは、いかにして現地の人間をうまく動かして、現地発の活動として盛り上げるかである。カネで現地の人間を雇ってトロール化するのは、その延長線上にある。これを食い止めるのはかなり困難だろう。
◆シリーズ連載「ネット世論操作と民主主義」
<取材・文/一田和樹>
いちだかずき●IT企業経営者を経て、綿密な調査とITの知識をベースに、現実に起こりうるサイバー空間での情報戦を描く小説やノンフィクションの執筆活動を行う作家に。近著『
フェイクニュース 新しい戦略的戦争兵器 日本でも見られるネット世論操作はすでに「産業化」している――』(角川新書)では、いまや「ハイブリッド戦」という新しい戦争の主武器にもなり得るフェイクニュースの実態を綿密な調査を元に明らかにしている