北部の山奥では大麻やケシの畑がいまだにある。ただし、素人が足を踏み入れることができる場所ではない
2018年のクリスマスのころ、タイ政府はアジアで初めてとなる、医療・研究目的の大麻使用を認めることを発表した。これによりかねてから医療ツーリズムの受け入れが盛んだったタイの治療関連の市場がさらに飛躍すると言われる。
医療目的の使用が認められた一方で、医療関係者は外国企業の買い占めを懸念する声が上がっている。これによりタイ国内で流通せず、タイ人の患者に行き渡らないのではないかという。
タイ北部の大麻生産の事情を知る日本人に話を聞くと、次のような答えが返ってきた。ちなみに、タイで大麻栽培というと北部をよく耳にする。かつては黄金の三角地帯があった場所で、現在も山間部では山岳少数民族が大麻を栽培しているケースがあるのだ。
「数年前から医療用大麻の解禁は北部の生産者は知っていることでした。タイ政府が研究を始めていましたから。その情報をいち早くかぎつけたアメリカの企業が生産者と契約して押さえているみたいですよ。タイの医療関係者は出遅れたのでしょう」
実は、タイではすでに産業用の大麻も研究され、いわゆる「ハイ」にさせる成分が入っていないものを様々な製品への転用が始まっている。服の繊維や、炭を使った製品などだ。
ただ、嗜好品としての使用は引き続き禁止される。一部の愛好家たちには嗜好品も解禁されるのではないかと期待されたが、東南アジアは全体的に麻薬に関する罰則は厳しく、さすがにタイも嗜好品の解禁には至らない。タイの法令では、ヘロインやコカインなどの刺激の強い違法薬物は売買目的の所有と判断されると死刑もあり得る。大麻はそれほど厳しくはないが、違法であることに変わりはなく、外国人であっても場合によっては何年も刑務所で過ごすことになる。
とはいえ、世界的には嗜好品を解禁する国も増えつつあり、医療使用から範囲を広げて嗜好品も徐々に認められる可能性はないのか。
先の北部の事情通は「医療と嗜好品の線引きが難しく、しばらくはないでしょうね」と語る。また、タイ北部に暮らす別の日本人大麻愛好家に話を聞くと、嗜好品の解禁の可能性は低いと断言した。
「さすがにタイでは嗜好品は難しいですよ。利権の問題もあるし、ちゃんとオンオフを明確に切り替えられないタイ人は今も多いので、ズルズルとハマって社会問題化してしまいそうですから」