そんな無人の理髪店内にK執行官のお説教が響く。
「そんなんだからダメなんだよ!自分で調べて自分で決めなきゃ!」
「言われたことにハイハイ言ってないで、しっかりしなさいよ!」
無理もない。債務者のおばあさんは知人の借金保証人から自宅を取られ、懲りずに続けて店舗を取られ、その店舗すら競売を前に知人にかすめ取られようとしていた。
執行官のお説教におばあさんも負けてはいない。
「今までこうやって生きてきちゃったんだもん」
「私、バカなんだしこの年だし、何も考えられないじゃない」
無理もない。70代のおばあさんに対して生き方を改めろ、賢く生きろはあまりにも酷な言葉だろう。
K執行官は親切に競売を進める手順を紙に書いて渡し、人生の教訓を何度も諭し、知人に店舗がかすめ取られないよう促したが、このような配慮も少しの時間を稼ぐくらいの効力しか無いのは明らかだった――。
情報社会と言われる現代のような社会システム以前には、このおばあさんや僕ら氷河期世代に代表される「弱者」、敢えて辛辣な表現をするならば“無能”な、これといった特技も能力も知識も持たない人々も、言われたことだけをやり、同じことを繰り返すだけでお金を稼ぎ、蓄えを設け、老後や不測の事態に備えて生きていくことが出来た。
ところが経営者も消費者もうまく情報を取り入れ共有し飛躍的に賢くなると、あっという間に取り立てて際立った特技や能力のない人、“無能”はまさしく“無能”として使いみちのない無視すべき存在になってしまった。
結果的に今を生きる“無能”は、蓄えのある“無能”をあの手この手で騙し、その富をかすめ取って生きていくしか道がないという状況に追い込まれている。
もちろんこれらは社会システムや政治の不備が招いたものではなく、遅かれ早かれやってきた飽和のようなものだ。
ここから先は社会や政治主導ではなく、民間主導の自助努力・相互協力的な社会保障体制を検討しない限りダメージを最小限に落ち着かせることは難しいのではないだろうか。
当面の課題として、弱き者が更に弱き者を騙す、この最下層で発生している富の再分配、最下層で発生している負のトリクルダウンだけでも、なんとか是正の方向へと導けないものだろうか。
<文/ニポポ(from トンガリキッズ)>
2005年、トンガリキッズのメンバーとしてスーパーマリオブラザーズ楽曲をフィーチャーした「B-dash!」のスマッシュヒットで40万枚以上のセールスとプラチナディスクを受賞。また、北朝鮮やカルト教団施設などの潜入ルポ、昭和グッズ、珍品コレクションを披露するイベント、週刊誌やWeb媒体での執筆活動、動画配信でも精力的に活動中。
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全国の競売情報を収集するグループ。その事例から見えてくるものをお伝えして行きます。