鉄道の手荷物検査強化。利便性とコストを踏まえた着地点を考える

 ‘19年、年が明けて早々に鉄道に関連するひとつのニュースが報じられた。テロ対策強化のため、政府が鉄道駅で乗客への手荷物検査の実証実験を検討しているというものだ。(参照:駅で手荷物検査 検討 五輪向け 政府、鉄道テロ対策–東京新聞

利便性を損なう手荷物検査は事実上困難

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 実際に1月8日には石井啓一国土交通大臣が記者会見でそれを認めており、早ければ2月から東京メトロ霞ケ関駅で実験が行われるのだとか。2020年の東京オリンピック・パラリンピックを踏まえているのは明らかだが、はたして“鉄道における手荷物検査”は実現可能なのか?  手荷物検査というと飛行機搭乗前の保安検査をイメージするが、鉄道ライターの境正雄氏は「それは間違い」と指摘する。 「当然政府や鉄道事業者も飛行機の保安検査のようなものは想定していないはず。あの保安検査は搭乗券を持たない人が保安エリアに入ったり、飛行機に登場することを防ぐという目的もある。鉄道の場合は新幹線でもきっぷに名前は記載されておらず、同様の検査はまったくの無意味です。むしろ、簡易的な検査によって危険物の持ち込みを防ぐシステムの開発を進めているという段階ではないでしょうか」  日本の鉄道が世界的に見ても高い利便性を誇っているのは気軽にすぐ乗れるから。SuicaなどのICカードの普及も利便性を大きく高めてきたし、都市部の通勤路線や新幹線は運転本数が多く、待たずにすぐ乗れる。こういった利便性を損なう手荷物検査の導入は、鉄道事業者にとっては経営状況を大きく左右する死活問題になるだろう。 「利用者の少ない地方ローカル線ならまだしも、満員電車が社会的な問題になっている都市部ではとうてい不可能でしょう。新幹線にしても、東海道新幹線は5~10分間隔で走っている。駅の混雑も大変なもので、スペース的にも時間的にも手荷物検査をする余裕はまったくない。そこで『テロ対策』を大義名分に検査を導入すれば、鉄道離れが進んで鉄道事業者の経営を圧迫。結果的に収益状況の悪い地方路線の廃止にも繋がりかねません」  むしろ、現在国交省が実証実験を行おうとしている“手荷物検査”は、「テロ対策ではなく個人が起こす事件への対策なのではないか」と同氏は見る。
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危険物持ち込みの厳格化が焦点か
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