広開土大王は、STIR-180から電波発射したのか?
日韓間の争点の核心は、この広開土大王は、
STIR-180から電波発射したのか?に尽きます。韓国側は、
STIR-180をEOTS(光学モード)で使っていたが、電波は一切放射していないと主張しています。日本側は、射撃管制電探に特徴的な電波を照射されたと主張していますが、どの電探からの電波か、イルミネーターであったか否かを一切明らかにしていません。不思議なことに、日本政府からは公式にこれらの点について全く言及されていません。
日韓両国ともに
軍事機密(防衛機密)にあたる電波情報を外交の場で開示することは考えられず、日本側が
安倍晋三氏の個人的意向で本件事態を外交問題化した時点で真相究明はほぼ不可能となっています。従って、外交の場では水掛け論層が続くと思われます。
広開土大王でXバンドKバンドを放射するのはSTIR-180のみですので、P-1の誤探知でなく且つP-1が受信した「FC系レーダー波」がXバンドであった場合は韓国側がSTIR-180から電波放射したことになります。ところが、現場にはもう一隻韓国船艇が居ました。参峰号です。
参峰号の電探は、軍用のSHARPEYE(ケルヴィン・ヒューズ社)です。使用周波数帯はXバンドとSバンドで、Xバンド放射源が参峰号にもあります。(参照:
SHARPEYE/ケルヴィン・ヒューズ社)
もちろん、同じXバンドと言っても周波数など電波特性は異なる可能性がきわめて高く(一致するほうがおかしい)、P-1がその程度の誤判断をするかというと、かなり疑問があります。しかし一方で、P-1の電子支援装置(ESM)がどの程度の精度で自動化されているか、旧西側圏の欧州製電波兵装の情報をどの程度保有しているかもわかりません。クルーの練度も関わります。これらは、P-1の命とも言える機密であって、漏洩することは国益をおおきく損なうこととなります。
一方で、かつて合衆国海軍が起こした大不祥事、
イラン航空655便撃墜事件という電波情報解析の誤りから民間航空機(エアバスA300 290人)を撃墜し、全員を殺害したという事例が示すように、電子戦における識別は難しいものです。この事件では合衆国海軍イージス艦ヴィンセンスが、イラン空軍F-14(もちろん合衆国製)の敵味方識別信号(IFF)と、A-300の電波高度計の信号を誤認し、僚艦2隻は誤認を認識していたのにもかかわらず迎撃を抑止できぬまま撃破してしまいました。この事件は、電子情報(電波情報)の取り扱い、警告の無線が通じないなど今回の日韓軍事的インシデントへの示唆に富んでいます。
いずれにせよ本来、
日韓実務者協議の場で密室での情報交換によって決着をつけられるはずであった射撃管制電探照射問題は、安倍晋三氏の個人的意向による映像公開とそれによる外交問題化によって真相究明の糸は切られてしまっています。これは日本側の大変な失態と言えます。まさに、
外交上の一大好機を台無しにしてしまったと言えます。
今後、韓国側との実務者協議を再開できても、当初見込んだ
外交上の優位性はすっかり消し飛んでしまっています。誠に残念なことです。私は、日本側映像を見、その公開理由が官邸の強い意向であったという報道を見たとき、何という外交下手かと嘆きました。外交上の大失態です。
今回は、日韓の軍事的インシデントにおいて得られた教訓まで言及する予定でしたが、長くなりましたので第4回で取り上げることとします。
【前回までの記事の訂正】
第二回の日本側映像の検討で、二箇所訂正があります。
広開土大王級に搭載のシー・スパロー艦対空ミサイルは、自律飛行できないもので、終末誘導まで母艦からのイルミネーター照射が必要です。(自機のシーカーでアクティブホーミングはできないようです。)
広開土大王と参峰号の間に居た被救助船とゴムボートが映像では途中から居なくなっている記述しましたが、読者の方から映っているとご指摘がありました。40インチ全画面に拡大して映像を確認したところ、映像の中頃まで参峰号の近くに小型船が存在していることが確認できました。映像の後半では、P-1は8キロまで退避していたために参峰号、広開土大王ともに映っておりません。
『コロラド博士の「私はこの分野は専門外なのですが」』番外編――広開土大王射撃電探照射事件について3
<取材・文・撮影/牧田寛 Twitter ID:
@BB45_Colorado>
まきた ひろし●著述家・工学博士。徳島大学助手を経て高知工科大学助教、元コロラド大学コロラドスプリングス校客員教授。勤務先大学との関係が著しく悪化し心身を痛めた後解雇。1年半の沈黙の後著述家として再起。本来の専門は、分子反応論、錯体化学、鉱物化学、ワイドギャップ半導体だが、原子力及び核、軍事については、独自に調査・取材を進めてきた。原発問題についての
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まきた ひろし●著述家・工学博士。徳島大学助手を経て高知工科大学助教、元コロラド大学コロラドスプリングス校客員教授。勤務先大学との関係が著しく悪化し心身を痛めた後解雇。1年半の沈黙の後著述家として再起。本来の専門は、分子反応論、錯体化学、鉱物化学、ワイドギャップ半導体だが、原子力及び核、軍事については、独自に調査・取材を進めてきた。原発問題について、そして2020年4月からは新型コロナウィルス・パンデミックについての
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