危険運転はなぜ起きるのか? ドライバーを増長させる、クルマの3つの特性

個人が瞬時に特定されにくい一般車の特徴も危険運転を助長

3.ドライバーの気を大きくさせる匿名性  同じ方向を向いて走るクルマ。危険運転をされた場合、そのクルマから得られる情報は、車種や色、ナンバープレートなど、「外身」のざっくりとしたものに限られる。中身に対する情報は、せいぜい性別や上半身の特徴くらいで、人相や体格など、より細かな情報はなかなか得にくい。  ドライブレコーダーの普及により、昨今は写り込んだ写真を証拠にして警察に届け出ることもできるようになったが、警察がそのクルマの捜索に動くのは、よほどの案件に限られてくる。  こうした「クルマに乗ることで生じる匿名性」が、ドライバーの気を大きくさせる要因の1つとなっており、危険運転へと繋がっているのも事実だ。  そんな中、例外的に、その匿名性がほとんどないクルマがある。  トラックだ。  トラックの車体には、大きく社名や電話番号、時には「匿名性」どころか、ドライバー最大の個人情報であるフルネームまで書かれていることがある。  これらの情報によりトラックドライバーは、少しでも行儀の悪い運転をすれば、すぐに会社にクレームの連絡を入れられてしまう状況に置かれている。実際、筆者の経営していた工場にも「オマエのところのドライバーに当てられそうになった」という怒りの電話がくることが時々あった。  こうしたことからも「匿名性」は、危険運転を引き起こす要因になり、逆に、身元を明かすことは、一応はドライバーの危険運転に対する抑止力になっているといえる。  余談にはなるが、「一応は」としたのにはワケがある。  大手の運送業者の場合、ドライバーに危険運転をさせないよう、十分に社員教育がなされていることはもちろん、会社が社員をしっかり統制できているため、たとえこうしたクレームが来ても、上司が厳しく注意することができるが、その一方、小さな運送業者の場合、業界の中でも特に深刻なドライバー不足を抱えている手前、クレームの電話が来ても辞められることを恐れ、社員を厳しく注意できない、という現実があるのだ。  ドライバー不足という問題は、こうした交通マナーや交通安全の向上を目指していくうえでも、大きな支障となっているのである。  中身を「下手」か「上手」かの2通りで判断してしまいがちなクルマ社会。「ハンドルを握れば皆平等」というのは、ルールやマナーにおいてのことであり、中身の運転スキルや身体的な強弱が平等になるわけではない。  ノロノロ運転をするドライバーに対して、「自分とは事情や状況が違うのかもしれない」と考えられる余裕や、彼らにイライラせずやり過ごせる許容を持つことも、ハンドルを握るドライバー1人ひとりの義務だといえるだろう。 【橋本愛喜】 フリーライター。大学卒業間際に父親の経営する零細町工場へ入社。大型自動車免許を取得し、トラックで200社以上のモノづくりの現場へ足を運ぶ。日本語教育やセミナーを通じて得た60か国4,000人以上の外国人駐在員や留学生と交流をもつ。滞在していたニューヨークや韓国との文化的差異を元に執筆中。
フリーライター。元工場経営者、日本語教師。大型自動車一種免許取得後、トラックで200社以上のモノづくりの現場を訪問。ブルーカラーの労働環境問題、ジェンダー、災害対策、文化差異などを中心に執筆。各メディア出演や全国での講演活動も行う。著書に『トラックドライバーにも言わせて』(新潮新書) Twitterは@AikiHashimoto
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