データ不正提供疑惑・計算ミス発覚の個人被曝線量論文。早野教授は研究者として真摯な対応を

事故発生後の早野氏の削除されたTweet

 以上、前半では問題となっている論文についての解説を行いましたが、後半ではその理解をより深めるため、早野氏の過去、特に2011年以降の活動を振り返ってみます。  早野氏は 2011年3月の東日本大震災とそれに伴っておきた福島第一原発の事故のあと、 twitter による情報発信で広く知られるようになった物理学者です。専門は原子核物理で、特に、「反物質」の実験的研究の成果で知られています。2008年には、「反陽子ヘリウム原子の研究」で、仁科記念賞を受賞しています。仁科記念賞は、日本の原子物理学とその関連分野でのおそらくもっとも権威ある賞です。  Twitterでのフォロワー数は 2011/3/11 の2300程度から3/18には14万と爆発的な伸びを示し、 3.11 以降の twitter、あるいはネットメディアにおけるもっとも影響力のある物理学者となりました。  ただ、私個人の印象としては、早野氏のTwitterでの発言は当初から福島第一原発事故の推移について、楽観的見通しを無責任に発信し、間違いが明らかになるといつのまにか修正する、というものでした。おそらく、そのようなスタイルこそが、多くの人に、「間違えることのない、信頼できる科学者」として受け入れられた理由になっているものと考えられます。  具体例をあげておきましょう。Twitter での、早野氏の3.11 以降の福島原発についての最初の発言は、早野氏のツイログのトップに残されている、3月11日 23:55:51 の “全くです.RT @y_mizuno: 九州大学の吉岡斉さんは、原発関連の科学技術政策の専門家なのだけれど、今回の福島原発で冷却できないとメルトダウンの可能性がある、などと言及されるのは理解できないなぁ。…そのコメントをするのであれば、関連分野の専門家を呼ぶべきでしょう。残念。” というものでした(元Tweetは削除済み)。ここで RT されているのは京都女子大学社会学部教授の水野義之氏の発言ですが、水野氏の前職は大阪大学核物理研究センター助教授で、水野氏の物理学者としての専門分野も早野氏と同じ原子核実験です。  ちなみに、この水野氏の発言を少し前に辿ると、 “@motokinoshita テレビで九州大学の吉岡斉さんがメルトダウンMDの可能性もあるとコメントされたそうです。BWR型では原理的にMDはあり得ないのでは?たとえ冷却できなくても核分裂反応が継続せず。分裂生成物の残留放射能の熱があるのみ。吉岡説のようにMD可能性あるのですか?”(水野氏の2011年3月11日23時33分のTweet)  という発言があり、そこでメンションされている方の発言を見ると “冷却不能=冷却水がなくなってきた、ので炉心破損の可能性がでたようですが、メルト ダウンにはなりません。圧力容器と格納容器は保たれます。 QT @misasaguy 放射能漏れの可能性と、放射能漏れとメルトダウンは全く違います。デマに惑わされないようにご注意下さい。 [修羅場なう]”(motokinoshitaこと木下幹康氏の2011年3月11日22時09分のTweet)  と書いています。この motokinoshita さんは、工学博士で、1974年から電力中央研究所で原子力・核燃料を中心に研究開発に従事し、2005年からは原子力委員会の材料の放射線影響研究の特任プロジェクトリーダーなど、原子力を中心に多数の公職を歴任したという経歴の方で(参照:http://www.directforce.org/pdf-2012/14-2012.3.30.pdf)、原子力、特に核燃料や、材料への放射線影響研究の専門家です。  というわけなのかどうか水野氏も早野氏も木下氏のいうことを吉岡氏のいうことより正しい、と思うことにしたようです。  しかし、あとから振り返ってどうだったかというと、 2015年になって木下氏は以下のようにTweetされています。 “@(木下氏のレス相手) 一番大事なときに、まちがったツィートをして、皆様に判断を誤らせる情報を流したことは事実です。私は核燃料が専門なのですがプラントの専門家ではありません。にもかかわらず責任のとれないツィートをしたのは一生の不覚で、これも含めて今は償いをする日々です”(木下氏の2015年3月3日のTweet)  要するに全くの間違いを流してしまったと書いているわけです が、その全くの間違いを全く疑うことなく信じて、実は科学的に正しく、また原発事故に関する常識でもある、冷却系が止まるとメルトダウンは時間の問題である、ということを否定したのが水野氏であり、早野氏だったのでした。  研究者であれば、この時点でなすべきことは「計算(概算)の根拠を示し、自分でもチェックする」ことではないかと思います。  核燃料の専門家である木下氏や実験物理学者である早野氏にこれくらいの計算ができないはずはないのですが、やらなかった、そして間違えた、ということです。  早野氏の間違いは3/12以降も続きました。以下、3/12日のツィートから特徴的なものをあげます。 “格納容器が守られていれば,大惨事にはなりません.” posted at 20:44:49(https://twitter.com/hayano/status/46537124727623680) “格納容器の損傷は無い.中がどうなっているかは現時点では言い切れないだろう.とにかく海水を満たして冷やさねばならない. ” posted at 20:50:45(元Tweet削除済み) “はい.建屋は壊れるが,格納容器は丈夫です.これが原子炉の重大事故を防ぐ最後の砦.破壊されなかったらしいので,ひとまず安心.朗報です.RT @le_chopper: @hayano これは、水素の爆発によるエネルギーが、格納容器を破損するほど大きくないということでしょうか?” posted at 20:57:28(元Tweet削除済み)  いずれのTweetも、「大きな問題にはいたっていない」という印象を受ける、非常に楽観的な情報発信になっていることがわかります。  現在の理解では1号機は3/11深夜にはすでにメルトダウンにいたっていたということがわかっており、何を寝言をいっているのかと思います(当時も思いました)が、もちろん東京電力も政府もメルトダウンなんてことは認めていなかった時期でもあり、「専門家」の発言として広く受け入れられたことは理解できます。
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事故から1年半後のインタビューにみる「事実」との相違
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