プーチンへの国民からの支持率が高いのは、彼が欧米に対抗して旧ソ連の復活を目指す姿に共鳴しているからである。勿論、経済的にも旧ソ連の末期の時代から比べて成長している。その一番のバロメーターは貧困層の人口に占める割合であろう。
BBCの統計を見ると、旧ソ連が崩壊した1991年の翌年は35%に近い貧困層であったが、2016年には15%を切るまでになっている。
旧ソ連復活を望むプーチンの姿に影響されたのか、国民の間でも旧ソ連へのノスタルジーが次第に膨らんでいる。
世論調査「レバダ・センター(Levada Center)」の最近の調査によると、66%の市民が旧ソ連の崩壊を残念がっているというのである。昨年はそれが58%であった。意外なのは18歳から24歳の旧ソ連を知らない若者の間でもその解体を惜しんでいるというのだ。これまでで市民の間で旧ソ連の崩壊を惜しんだ最高率は2000年の75%であったという。現在、それに次第に近づいているということである。
クリミアを併合してからメディアの間でも「ロシア帝国」の誕生について触れることが増えたという。欧米から非難を受ければ受けるほど旧ソ連そしてロシア帝国の誕生をロシア国民の間でより意識するようである。(参照:「
El Pais」)
旧ソ連が崩壊した時は一夜にして市民が貯蓄していた貯金も水の泡となったのであるが、「旧ソ連の時代は恐れを感じることがなかった。しかし今は、誰も我々のことを気に掛けてくれない」と年金受給者のミハイル・フィリポフ(仮名)が語ったそうだ。(参照:
「El Diario」)
しかし、旧ソ連も時代の変遷によって様相が異なった。1970年代までは発展性のある経済成長を保ていたが、1980年代になってブレジネフの長期政権は官僚制度の支配が濃厚になり体制に腐敗が蔓延。その影響から経済面での生産制は衰え経済成長は後退。品不足なども発生するようになって、物品を手に入れるのに長蛇の列に並ばねばならないという事態を生んだ。ゴルバチョフ政権になって経済改革を試みるが政治の対立が激しくなって、民族問題も再燃して連邦制の維持も難しくなってソ連の崩壊へと導いて行ったのである。
現在のロシア国民はそうした歴史を忘れてしまったのか? 旧ソ連へのノスタルジーも70年代までの世界にも影響力を与えていた国家体制へのノスタルジーであろう。
<文/白石和幸>
しらいしかずゆき●スペイン在住の貿易コンサルタント。1973年にスペイン・バレンシアに留学以来、長くスペインで会社経営から現在は貿易コンサルタントに転身
しらいしかずゆき●スペイン在住の貿易コンサルタント。1973年にスペイン・バレンシアに留学以来、長くスペインで会社経営から現在は貿易コンサルタントに転身